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第30話〜戦いの目的〜

 琴乃若商店街の上空に、翼をもつ人間二人が浮かんでいた。

 片方は悪魔がもつような、黒々とした翼で、もう片方は炎でできた天使がもつような赤々しい翼だった。

 悪魔の翼で滞空している方は、この世界を滅ぼすためにやってきた『イノベート』の『イノベイター』で、シイナ・レイル・ジェイドといった。

 炎の翼で空を駆る方は、異世界と異世界を渡り歩き、永遠に近い時間を旅することのできる旅人の一人、サラ・イーストスカイといった。

 サラはシイナをにらみ、シイナは不敵に笑っている。

 地上ではルウがどうしたものかと悩みながら、ことの成り行きを見守っている。

 その隣にいるトレースは道具としての矜持を取り戻し、ルウの命令にすぐにでも対応できるよう、彼の一挙一動を見ている。

 そんなルウとトレースを背に、サラはシイナと対峙している。

 「……あんたを塵一つ残さず燃やしたら、あんたは生き返れないのよね?」

 「ククク……いきなりなんだ?わかりきっていることだろう。私を殺したければ、最大火力でやることだな。たとえ一瞬でも気を抜いたら……私はそこからまた、蘇る。ククク……まるでゲームだな?とてつもなく楽しいよ」

 どこまでも不敵に、自分が死ぬかもしれないのに笑うシイナの顔はどこか作りものめいていて、人間味にかけていた。

 「その言葉……後悔させてあげる!『フレアバルカン』!」

 サラが翼を一羽撃はばたきさせると、翼から無数の炎の塊が銃弾のようにシイナに向かう。

 「……そろそろ、かな」

 シイナは誰にも聞こえないようそうつぶやくと、軽く翼を動かした。

 その動作だけで、シイナはサラの目の前にいた。炎の銃弾はすべて受けたのか、再生した服も体も穴だらけになっているが、シイナが怯むことはない。

 「……!!?」

 それよりも、シイナに接近を許したサラの方が、動揺していた。

 シイナの息がかかるような距離で、敵が文字通り目と鼻の先にいるというのにサラは何もしない。

 いや、何もできなかったのだ。

 シイナの体から発せられる、闇の波動とも言うべき黒き雰囲気に圧倒されて。

 「ククク……一時間だ。私とお前らと戦い始めてから、一時間……。私の本当の目的を教えてやろう」

 シイナはサラの耳元に顔をよせ、囁いた。

 「私はな、時間稼ぎ(・・・・)に戦ったんだ。ククク……この街の随所に十キロのプラスチック爆弾を仕掛けさせるための時間をずっと稼いでいたんだ」

 「…………!!!」

 驚愕するサラをよそに、シイナはいったんそこで下がった。

 「ククク……クハハハハハハハハハハ!愚かだな!私の計画は今すぐにでも実行できる!この世界の根幹であるこの街は私の一言で爆破させられる!さあ、どうするルウ、トレース!」

 試すように、シイナは高笑いする。ルウは一瞬戸惑いながら、けれど冷静にトレースに命じた。

 「トレース。シイナの口をふさいで。……穏便にね」

 「了解!」











 「シイナ、キミはしゃべれな」

 「私が規定時間になっても何も言わなくても、爆発するよ?」

 世界にシイナの口をふさぐよう命令しようとしたトレースを、シイナの絶望的な言葉が止めた。

 「な、なんだと!?」

 「念には念を、って言葉があるだろう?この世界を確実に壊せるように、たとえ私たちの(・・・・・・・)誰かがしくじった(・・・・・・・・)としても(・・・・)爆弾がすべてを(・・・・・・・)破壊してくれる(・・・・・・・)手筈になっている(・・・・・・・・・)。そう、私たちをいくら倒しても、世界破壊の阻止にはつながらないわ。……ククク……本当に、お疲れ様。ククク……アハハハハハハハ…………」

 不敵に、でもどこか悲しげにシイナは笑う。驚きで、ルウ達は二の句が継げない。

 ふとそこで、サラが気付いた。

 「……あんた達はどうするの?」

 そのサラの言葉に、シイナの笑いがぴたりとやんだ。

 「……言っている意味が……わからないんだけど?」

 とぼけるように、シイナが言う。今まで余裕だったシイナに、初めて焦りが見えた。

 「あなたたちも死ぬわよね、その計画じゃ。……まさか、自分の死まで織り込み済み?」

 「……ククク……クハハハハハハハハハハ…………。よく、気付いたね」

 シイナの笑いが、不敵な笑いから自嘲するような笑みに変わった。

 「私は使い捨てなの。不老不死で、永遠に死なないんだけど、私は……」

 シイナはあきらめたのか、それともなにか思惑があるのか、誰にたのまれるでもなく語りだす。

「私はシイナ。優秀な『イノベイター』、シイナ・レイル・ジェイドの複製コピーなの」

 それが何を意味するか、なんてことはルウ達には理解できなかったが……

 













 シイナには似合わない悲しい表情が、その意味を理解させた。

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