第27話〜戦闘後〜
「……へえ、コトリお姉ちゃんの能力、『転生輪廻』っていうんだ」
クレアとコトリがシイナの死体を放ったまま、地面に直接座っている。
クレアは胡坐だが、コトリはちゃんとお嬢様座りである。
クレアは体こそ綺麗だが、コートは変わらず血と土で汚れており、洗濯の必要性を大いに感じさせている。
今までコトリはクレアが生き返った経緯を話していた。恐る恐る、慎重に。
けれど、自分が死んでまた生き返ったということを聞かされてもなんら普段通りなので、もし何かあったらどうしようと思っていたコトリは安心しながらも、クレアの質問に答えていた。
いつもならけして答えないような内容なのに、今はスラスラと口がすべる。
きっと、クレアを死なせてしまった罪悪感なのだろう、と見当をつけるとコトリは会話に集中し始める。
「フムフム、命を与える能力、か……ずいぶん珍しい能力ね。私、生命をそのまま操る能力なんて初めて見た」
クレアは手帳を片手にいろいろ呻いている。
その手帳には『研究手帳』と書かれており、開いてあるページには『コトリ・ペンタグラムの能力『転生輪廻』についての考察』というタイトルがあり、びっしりと書き込まれている。
異常な速度で書かれる手帳は、次々にページを更新していく。
研究好きなクレアは、気になることがあるとすぐにこの研究手帳を開いて、考えを記していくのだ。
「……で、その能力の弱点は相手に触れなければ使えないこと、戦闘向きでないこと、ってところかしら」
そこまで書くと、クレアはいったん書く手を休め、コトリの方をむく。
「……すごい、ぴったり」
「でしょ?」
「本当にすごいね、クレアの推理力。将来探偵になれるんじゃない?」
そうコトリがほめるのも無理らしからぬことであった。
クレアはコトリの『能力の名称』のみで能力の弱点までを見抜いたのだから。
「そんなことないよ。ただ、名は体を表すってよく言うし、それは単純に語彙能力の問題よ。弱点のことなら、簡単よ。まず、触れていなければならない、ってところは結果から推理したの」
「結果から?」
コトリの疑問に答えるかわりに、クレアは横たわるシイナの体に視線を向けた。
「私が生き返った時、シイナと私、そしてコトリお姉ちゃんの距離はとても近かった。で、シイナの手をコトリお姉ちゃんが触れてたのを見て、触らないと使えない能力なんだな、って見当をつけたの。んで、相手に触れないと使えない能力って総じて戦闘向きじゃないから、あたりをつけていってみただけ。このくらいのことなら誰にだってできるよ」
「できるかなあ?私、あんまりそういうの得意じゃないから……」
コトリは悲しそうに呟く。
「人それぞれ、得意不得意あるから。私は戦闘は得意だけど、日常生活はあんまり得意じゃない」
「……それって、得意な人いるのかなあ?」
日常生活が得意です、とは言わないだろう。
そうコトリは思ったのだが、どうやらクレアは違うようだ。
「いるよ。平和な世界にいる人はみんなそう。身に迫る危険なんかまるで警戒せずに、今がこの世の終わりだとでも言いたげに、面白おかしく過ごしてる。……私はそんなのできない。
どんなに楽しくても、警戒心をとくことができない。ちょっとしたことで拳銃を握りそうになる。……相手が男ならとくにそうなの。私は……こんな平和な世界に合ってないのかもしれないね」
寂しそうに、クレアは言う。
さっきだってそうだ。シイナと戦っている間が一番充実していた気がする。
殺されたのに、楽しかったと思っているのだ。
「……クレア、それは合ってないんじゃないわ」
そうやって思考のるつぼにはまっているクレアに、コトリが真剣な表情で言った。
「クレアが今そうやって悩むのは、変わろうとしているから。今まで戦い続けてきて、戦うことに馴れていただけ。こんどは平和に馴れるの。少しずつでいいから、馴れていくの。……きっと、クレアには簡単だよ?」
最後に天使のように微笑んで、コトリは言った。
「……コトリお姉ちゃん……」
クレアは、どこかつきものが落ちたような表情で姉の名前を呼ぶ。
「なあに?」
コトリも、優しげないつものコトリに戻って、言う。
「ありがとう、コトリお姉ちゃん」
「どういたしまして。クレア」
二人を、平和で暖かな雰囲気が包む。




