表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/82

第25話〜敗北〜

 ――――ルウ達の戦闘開始と同時刻、玻座真はざま学校校庭―――





 何度目だろう?

 と、かすれる意識の中、クレアは考える。

 何度目だろう?こうやって立ち上がるのは。

 血と土にまみれた体を必死で起こす。立ちあがって、拳銃を構え、敵を見据える。

 その瞬間、クレアは蹴り飛ばされる。

 もう何度目か分からないほど吹き飛ばされ、たたきつけられ、そして立ち上がった。

 戦闘、とはと言うにはあまりに一方的な攻撃。それをシイナは延々と続けていた。拳銃を自分に向けられると同時に、蹴り飛ばす。

 そんな行為を、もう数え切れないほど。 

 「ククク……なあ、てめえさ、私に勝てるとか思ってんだろ?無理無理。私、死なないから。まあ、死ぬこともできるけど、まず死なないから」

 そう言って希望を断たれても、クレアは心を折らずに立ち上がる。

 目はかすれ、照準はもちろん、立ち上がる力さえも能力に任していても、心だけは、あきらめない。

 「おいおいおいおい!てめえ、もうほとんど気ぃ失ってるだろ!?てめえの能力に頼り切って戦闘って、どういう神経してんだよ?」

 シイナの驚くような声ももう、ほとんど聞こえない。

 「わ………わたし……は……護る……んだ……」

 うわごとのように呟いて、銃を構える。

 すると、一切の容赦なく、シイナに蹴り飛ばされる。

 空中を飛び、地面にたたきつけられ、そして、すぐさま立ち上がろうと力を入れる。

 「おいおいおい!まじかよ……!てめえ、正気か!?てめえの後ろにいたやつなんかビビってなんもしてこねえんだぜ!?それなのに、なんでてめえみたいなガキが……」

 後ろにいたやつ、って……お姉ちゃん……?

 靄がかかったような頭で、ぼんやりと考える。

 姉は、戦闘に一切参加してない。

 それは能力は弱すぎて足手まといになると判断したのか、それとも単に怯えているのか。

 クレアはどちらでもあるような気がしたし、どちらでもよかった。

 お姉ちゃんに、辛い思いはさせられないよ……。

 全身が引きちぎれるように痛い。傷口に土やら砂やらが入って痛む。呼吸がまともにできない。能力の補助を含めても、もう力が入りにくい。こんな思いを姉たちにして欲しくない。

 「だから!何度も言ってるだろ!?私は、死なねえんだって!無駄死にだぞ!?このままじゃ!」

 あきらめろ、と言うようなシイナの言葉に、クレアは嗤って答える。

 「だから、なに?……あなたは『死ぬこともできる』と言った……。なら、対処方法は、簡単……。『もう死にたい』って思うまで……痛めつければいいの……。拷問のし方なら、いつもされてたから、覚えてるし、道具もいっぱい作ったし……捕まえたら、じっくりたっぷり、試してあげる。あなたの……その……体で、ね」

 その瞬間のクレアはもはや虫の息で、蚊が鳴くような声だったが。

 シイナに十分の危機感を抱かせるほどの、迫力があった。

 「ククク……おもしれえ!遊んでやろうと思ってたけど、もうやめだ!てめえは私の敵だ!きっちりしっかり、殺してやるぜえ!!」

 立ち上がろうと、クレアが腕に力を入れた時だ。

 「死ねや!」

 うつ伏せに倒れていた体の上に、シイナがいた。

 ―――!!

 首だけでその方向を向き、愕然となる。

 今までのような遊びでなく、本気で殺しにかかっていることがありありと分かった。

 振りかぶる手は開いた状態で、その爪にはナイフのようにとがっている。それを吸血鬼の膂力で差し込まれたら……。

 戦いの中に身を置いてきた彼女でなくとも、その結果は理解できる。

 ……死ぬ。

 今度こそ、死ぬ。

 そう、クレアが理解した時。

 








 ドッ









 と。

 

 

 クレアの中心が、熱くなった。







 


 ――――ああ、私、死ぬんだなあ……

 どこか遠くの出来事のように、クレアは感じていた。

 もちろん今でも背中は当然のこと全身が痛むし、苦しいのにも変わりないが、それでも、先ほどまでとはまるで違った。

 自分が遠くに逝くという自覚。

 それをした時、クレアの頭はいつもよりもクリアになった。

 ―――怖くは、ないなあ……

 クレアはいつも死ぬ時は怖いものだとばかり思っていた。それなのに、実際死ぬと分かっても、それほど怖くはなかった。

 ―――お父さん、お母さんともお別れかあ……

 その名前を思い出すと同時に漠然と、記憶が思い浮かぶ。

 引き取られた時のこと、その次の日にあった家族の親睦会。

 お父さんにもらったプレゼント。ああ、そういえばあんまり使ったことなかったなあ……

 元の世界を出てかの旅、辛いこともあったけど、家族が一緒だったから、がんばれたんだろうなあ……

 それから、この学校にきてから。

 そうそう、いきなり喧嘩が始まって、克樹とかいう男が風羽の胸倉つかもうとして……

 その時、沙耶と友達になったんだ。

 友達、なんて初めてだったなあ……嬉しかったなあ……。

 でも、もう沙耶とも会えないんだ……。

 ……私のお葬式で、沙耶は泣いてくれるだろうか?……きっと、負けるのは私だけだろうな。だから、その罰でお葬式もしてもらえないかも……

 ……なんかそれ、さびしいな。

 そんなことが、次から次から思いつく。

 だんだん、痛みがなくなってきた。

 意識が薄れてきて、体の感覚がなくなって、どこか心地よくさえなってきて、そして、そして……










 「……クレアっ!」






 コトリの声を最後に。

 クレアの意識は、終わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ