第24話〜戦闘開始〜
―――同時刻、琴乃若商店街――――
「来たわね、『イノベート』!燃えろおおお!!!」
飛んでいるシイナをとにかく燃やそうと、サラはトレースにぶつけるつもりだった超特大火炎球をシイナにぶつけた。
空に浮かんだ彼女が、火に包まれる。
「サラッ!?」
ルウがあわてたように言う。サラはルウのいつもの博愛主義かな、と思っていたのであまり気にせずに燃やし続ける。
「……キミはあれか?敵にそのまま通用するようなモノをボクにぶつけるつもりだったのか?」
じとりとトレースが睨むが、それも無視。
『イノベート』。
サラはその名前を嫌っている。
ある世界で、『イノベート』のわけのわからない理念のために親友だった少女が無残に殺されたから。
今その犯人は罰として危険な世界にいる(とサラは思っている)が、『イノベート』という名前は今でも嫌いだ。
だからつい、本気でやってしまう。
「ぐ……ぐウ……」
シイナにも効いていることを確認すると、さらに火力をあげる。
「サラ!やりすぎだって!問答無用で攻撃なんて……」
ルウの忠告も、今だけは聞けない。
「ルウ!あんたも攻撃して!トレース、あんたもなにぼさっと突っ立ってんの!とっとと斬るなり撃つなりしなさいよ!」
最大火力で焼きながら、叫ぶ。
火炎に照らされたシイナの輪郭が、どんどんあいまいになっていく。溶け始めているのだと思ったサラは、若干火を緩めた。
「ぐ、ぐああ……!」
だんだん、火が弱まっていく。それは燃やそうとした対象が消え行きつつあることを、示していた。
サラの能力、火炎は対象が燃焼しきるまで消えない性質を持つ炎を出すことができる。今の火炎球はその炎で作っていたのだ。
「サラ!やりすぎだよ!いきなり燃やすなんてどういうこと!?」
珍しく、ルウはサラに怒鳴った。
「……なによ!敵なのよ!?別にいいじゃない!てか、なんでルウは『イノベート』の肩もつの?おかしいじゃない!この世界が滅んだら、クレアがせっかく作った居場所も一緒に滅ぶのよ!?」
サラも、今回ばかりは引き下がれない、と反論する。
「わかってるよ、そんなことは!だから、すこしでも情報が欲しかったんだ!それなのに、殺してしまって……!」
と、ルウが嘆いた。もう、敵の情報は得れないのか……そう、彼が思った時だ。声が響いた。
「……ククク。一体だれが、殺されたのかな?」
サラとルウが、声のした方向……さっきまでシイナの灰があったところを、見た。
「う、嘘……!?私、ちゃんと焼き殺して……」
茫然と、サラが呟く。その声の主は、今さっき焼き殺されたはずの、シイナだったからだ。
「ククク……いいことを、教えてあげよう。私は『イノベート』の、『イノベイター』だ。……意味は分かるかな?」
サラは、ピクリとなった。
『イノベイター』。『イノベート』の中でも上位に位置する強さだと表す肩書き。
「でもね、私には世界を滅ぼせるような強い力を持っていない。……ククク、ただの喧嘩なら、そこらへんの小学生にだって負けれる自信がある」
「そんな奴が、なぜ『イノベイター』に?」
トレースが、バカにするように言った。シイナはその口調に顔色一つ変えず……いや、ことさら嬉しそうに、わらいながら言った。
「ククク……なぜなら、喧嘩と殺しあいは違うからだよ。喧嘩にはある程度ルールがある。しかし、殺しあいにはそれがない。……だから、私は『イノベイター』になれたんだよ。ククク……なぜだか、分かるかい?」
挑発するようにシイナは言うが、誰ひとりとして答えようとしない。3人とも、どこか言い知れぬ違和感が軽率な発言をためらわせていた。
「ククク……私は世界で唯一『変化を許された吸血鬼』だからさ」
その理由に、一同はぽかんとなる。
それを無視し、シイナは続ける。なぜ、力のない自分が『イノベイター』になれたのかを話す。
「ククク……知ってるかい?吸血鬼はなぜ、不老不死なのか。なぜ、受けた傷が一瞬で癒えるのか。なぜ、いつまで経っても外見年齢そのままの精神なのか。
それはね、吸血鬼という存在は総じて『変化を許容しない』んだよ。常に一定を求める。不老不死や治癒能力なんかは、その結果でしかない。
ククク……だから、長生きの吸血鬼は死を求めるのさ。死ねない。変われない。髪型さえも変えれないんだ、それでは飽きてしまうだろう。
ククク……でも!私は違う!」
そこで、シイナの口調が一気に変わった。
闇の権化のような雰囲気から、どこか狂気をはらんだ雰囲気に。
「私は変われる!傷を癒すタイミングは自分で決めれるし、外見年齢も思いのまま!そして何より、死ぬことも、そこから生き返ることもできる!塵一つでも残って入れば、それから私は元に戻れる!理解したか!?殺し合いをしている以上は、私が死ぬことはない!だから敗北することがない!まさに、無敵、完全無欠、最強の存在!それが、私!究極の生命、それが私、シイナ・レイル・ジェイドだ!クハハハハハハハハハハ!!!」
狂った笑みを、いつまでも続けるシイナ。
「……もう、十分だ。やるよ、サラ、トレース」
勝ち目がないと言われ、どうすればいいか迷っていた二人に、ルウが優しく、語りかける。
「いいかい、あの子と普通の吸血鬼と違うのは、いつでも死ねて、いつでも生き返れるというところだ。そこは長所でもあり短所でもある。塵も残さず、倒すんだ。そうすれば、大丈夫」
サラに余計な罪悪感を抱かせないため、殺す、という単語をあえて避ける。
「……分かった。トレース、あんたも協力しなさい!」
サラが両手に炎をまとわりつかせて、言った。
「分かってるよ、いちいちキミに言われなくともね。……さあ、戦おう。吸血鬼狩りだ!」
トレースが両手を虚空に伸ばす。
「いでよ……十字架の双剣!」
その声は、世界に響いた。
その声を引き金に、あらゆる物理法則を無視し、鉄、セラミック、ありとあらゆる素材を元いに、二振りの双剣が、彼女の手に握られる。
十字架によく似た、大ぶりの双剣。
本来両手で持つ大きさの剣を、双剣にする。
そんなことができるのは、『ユージュアクション』を持つクレアか……
「さあ、行こうか」
世界の支配者たる、トレースだけある。
「……早く終わらせて、みんなの援護に行こう。……十分以内に終わらせよう!」
そう言うとルウは双剣を目にもとまらぬ速さで抜き放ち、シイナに肉薄した。
「ククク……クハハハハハハ!」
戦いが、始まった。




