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第23話〜邂逅〜

 ―――邂逅と同時刻、私立玻座真(はざま)学校校庭―――

 

 

 

 クレア、リリー、コトリは、今だ見ぬ敵を夏の日差しが照らすなか、ただ待っていた。

 3人の中に、会話はない。

 ただただ、いつか来るであろう強敵を待ち、その時襲うであろう恐怖と、懸命に闘っていた。

 もうすでに、戦闘は始まっているのだとでも言うように。

 彼女たちはもう、疲弊していた。

 リリーも、コトリも、クレアも、もともと精神の強い方ではない。何かあればすぐにでも絶望を覚えてしまうような……そんな、どこにでもいる少女たちだった。

 二人の姉は不安そうに周囲に気を配り、わずかな音でもビクリとなるほど、過敏になっている。

 クレアはその小柄な身には合わない無骨な拳銃、コルトパイソンを両手で構え、周囲に気を配っていた。

 彼女は全ての兵器を使いこなす『ユージュアクション』の能力を持っているため、普通ならば持つこともかなわない大型の拳銃も、らくらくと扱える。

 拳銃を扱うために必要な知識、経験。

 そんなものはクレアには必要ない。必要なのは、戦う意思と、冷静な判断力。幼いころから人殺しや戦闘ばかりやってきた彼女は、誰に教わるでもなくそれを知っていた。

 敵はすぐに来る。その時は私が応戦しないと!私が学校を、みんなを守るんだ――!

 そしてクレアの中は、その思い一色だった。恐怖も、怯えも、その思いの前には靄のようにかすんでしまう。 

 今なら、どんな敵にも向かっていける。

 クレアがそう確信するほど、その思いは強かった。

 「来い……早く……来い……!さあ!私はここにいるぞ、『イノベート』!早く私と戦え!!」

 クレアの叫びに、リリーとコトリはびくっとなる。

 もし、本当に来たら、どうするんだ!?

 そう忠告しようとした時だ。

 







 「……よんだ?愚かな少女。道化のように敵を求めて何がしたいの……?」

 





 敵が、現れた。歩いて、校門から校庭まで何者にも阻まれず。

 彼女は例にもれず他の所に現れたシイナ・レイル・ジェイドと同じ姿形だったが、彼女だけが、様子が違った。

 どこまでも、悲しそうで、どうでもよさそうで、もう飽きたような、そんな表情。

 それでも、あふれ出る悪意と、害意と、敵意と殺意に変わりはない。凶悪で邪悪な雰囲気も他のシイナと変わりない。

 急に現れたシイナに気押された二人の姉はすっかり怯え、硬直していた。

 しかし。



 





 「―――――死ね(・・)

  









 


 クレアは完全に相手の口上を無視し、相手との探り合いもせずに、話し合いの余地をまったく見出さずに、発砲していた。

 恐怖のあまりに先走った、というわけではけしてない。クレアはどこまでも冷静だ。

 その証拠に彼女は撃つと同時に身構え、相手の反応を探る。

 「……小学生って、『みんな友達、愛は世界を救う』、『手を出す前に話し合おう』とかいうバカげた思想を当然のように信じているような存在だったと……私は思ってるんだけど。

 それがいきなりなに?なんの返事もなく『死ね』?……先行き不安ね」

 拳銃、しかも護身用拳銃デリンジャーとは違い致死性の酷く高いもので撃ったというのに、そう言った怨みごとを言うだけで、なにも行動しようとしない。

 「……な、なに?まあいい、死ね!」

 またもや無情に引き金を引いたクレアだが、今度はシイナも動いた。

 ただ、うっとおしそうに手を払っただけ。

 それだけで、弾の軌道をずらした。

 「…………う、嘘」

 愕然と、クレアがうめく。

 「……私ね、ヴァンパイアなの。『イノベート』所属の、吸血鬼」

 悲しそうに、さびしそうにシイナは言う。

 「やめよ?あなた達旅人でしょ?なら、こんなちっぽけな世界見捨てて逃げればいいじゃない。なんで立ちはだかるの?私、強いよ?それなのに、なんで?」

 悲しそうに言うシイナを無視し、パイソンをシイナに向ける。

 こいつのいうことは、気に食わない。

 「私はね、この世界を滅ぼされちゃ困る理由があるの」

 害意、悪意、敵意、殺意、憎悪、憤怒……それ以外の感情を忘れてしまったかのように、クレアは言う。

 「沙耶を、沙耶のいる世界を『ちっぽけ』なんていうやつ、生かしておけるか!」

 引き金を引く。

 轟音、そして、銃弾がシイナに届く。

 心の臓を寸分たがわず狙い、命中させたクレアの能力はさすがの一言に尽きる。

 


 が。

 


 

 「ククク……ククク……」

 



 相手が、悪すぎた。

 「クハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!おもしれえ!ネコかぶってやりゃ調子に乗りやがって!本当におもしれえガキだ!!!『仏の顔も三度まで』ってなァ!!てめえのお望み通り闘争と戦闘としゃれこもうぜえ!!」

 吸血鬼。

 それはどこの世界でも変わることなく、強さの象徴として存在するのだ。














 吸血鬼―――――。

 その存在に、クレアは会ったことがあった。

 つい、ほんの昨日のこと。その吸血鬼はただ生きている、といった感じの弱い生き物だった。

 しかし、その吸血鬼とは明らかに違う何かが、シイナからは感じられた。

 圧倒的で破壊的な、闇。

 闇とは、全ての終焉にして全ての始まりだ。

 闇から宇宙――世界は始まり、終わる時も、闇一色に包まれて終わる。

 そして、全ての闇の統括者、それが、吸血鬼。

 ただ血を吸う無能な化け物では、けしてない。

 「ひ……」

 クレアはシイナにコルトパイソンを突き付けている。

 それに対し、シイナは何もしてこない。

 


 はずなのに。

 

 

 まったく、自分が優位に立っているという気がしない。

 「く……あ……」

 何をされているでもないのに、心が折れそうになる。

 「……!!!」

 本能に従い、全力で逃げようとする体を必死で抑えつけ、引き金を引こうとする。『ユージュアクション』が告げる。あと一ミリ引いたら、銃弾が発射される、と。それに従い、クレアは引き金を引こうと、指に力を入れた。

 「ククク……クハハハハ!おもしれえ!この圧力にも耐えるか!ホントに――――」

 と、そこで。

 シイナの姿を見失った。

 と、彼女が思った瞬間。

 「――――おもしれえ!!」

 


 ゴッ。


 と。クレアのこめかみに、シイナのひざ撃ちが入った。

 視認できないほどの速さでクレアのすぐそばまで来た彼女は、敵の姿が消えて茫然となっているクレアに本人としてはゆっくりと、ひざで蹴り飛ばしたのだ。

 シイナは別段本気でやったわけではなく、遊び程度の攻撃だったのだが、クレアの小さな体は5メートルほども吹き飛んだ。

 「カハッ!」

 視界がぶれ、クレアの体は宙を舞う。地面にたたきつけられて、肺の中の空気が全部吐き出される。

 「ぐ、この……バケモノ……!」

 それでもクレアは倒れたまま照準を合わせ、拳銃の引き金を引いた。

 


 ドン!ドン!ドン!


 

 爆発音に近い発砲音と共に銃弾が吐き出される。しかし、それがシイナに当たることはない。 

 全部よけられたのだ。

 「な……」

 確実に急所を狙い、よほどうまい避け方をしないことには避けられないように撃った。

 「ザコめ。そんな豆鉄砲で私を殺せるとでも?」

 その弾道を見極め、腕一本でそらしたのだ。

 「そん、な……」

 

           












 

 ――――勝てない――――!

 その実力差は、そうクレアが絶望するのには十分すぎるほどだった。

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