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第22話〜索敵〜

 ―――祟家―――

 和風作りの家屋の一室、少女が目を閉じ、黙想していた。

 「……始まる……悲しい……戦いが……終わることのない……争いが……」

 今、この世界は一般人――異世界人以外の人間は覚めることのない眠りについている。

 しかし、少女は違った。どこまでも儚げな印象の着物の少女は、うっすらとだが、目を開けることができた。

 その瞳は黒なのだが、妙に薄く、今にも色が消えてしまいそうなほどだった。

 「……護って……この世界を……優しい……この世界の人たちを……」

 再びその目は閉ざされ、くたんと糸が切れた人形のように横になる。

 少女からはじきに寝息が立てられ始めた。

 その両手は、祈るようにして組まれていた。

 

 







 

 

 

 

 ―――琴乃若商店街―――

 今、街は死んでいた。

 道行く人々が皆、なにも考えずに、恥も外聞もなく路上に横たわり、眠っていた。

 これは敵襲ではなく、トレースが組み込んだ街の防衛機能。

 自分たちが素早く動けるように、余計な人員は全て眠らせたのだ。

 「……ここかい?」

 転送されたルウが振りかえりもせずに訊いた。

 「ああ。誤差20メートル。なかなかの精度だろう?」

 えらそうにトレースは胸を張る。しかし、

 「それならなぜ敵がここにいない?」

 ルウの辛辣な質問に、言葉が詰まる。

 「う、そ、それは……」

 オロオロとし始めたトレース。何と答えようか、と彼女が迷っていたところに、

 「……てかさ、ルウ。いい加減、説明してくれない?」

 不機嫌真っただ中のサラが、ルウに疑問を投げかけた。

 「……説明って、なにを?」

 いっそすがすがしいまでに、ルウはしらばっくれた。

 「……焼くわよ?」

 掌に炎の塊をだして、脅す。

 わざわざ能力を出してまで訊き出したい理由は、イラついているから、それとも単なる嫉妬心か。

 その気迫にまけて、ルウは説明を始める。が、

 「ごめん。説明する。彼女は僕の道具にして奴隷だよ。昔、拾ったんだ」

 その説明は、まるでお気に入りのオモチャを紹介するかのような簡潔さと気軽さだった。

 サラは一瞬意味がわからない、という風な顔をし、けれどすぐに意味を理解して叫んだ。

 「はあ!?ど、どどどどどどどどどどど、奴隷!?それって、あの、絶対服従で主人の言葉には逆らえないっていう……」

 「僕たちが行ったことのある世界で、奴隷という言葉がそれ以外の意味をとっている世界はまだないね」

 言外に、君の言う通りだよ、と促して言う。

 サラは空いた口がふさがらない。しばらくその意味を考え、そして、何を思ったか急激に顔を赤らめた。

 「な、な、何よそれっ!?ど、奴隷!?じゃ、じゃあ、ベッドの中でのご奉仕とか、○○○○だとか、×××××だとか、○×○×○×だとか!?」

 さすが思春期+恋する乙女、といったところか。そういった想像はクレアよりもすぐに思いついた。

 「……ボクはまだ、そういった用途で使われたことはない。……何度も進言しているのだがな。絶対に応じてくれないのさ。ときたまご主人様(マスター)が本当に男か分からなくなる時があるよ。……こんなに綺麗な顔してるのにね?」

 トレースが酷く残念そうに言う。

 その言葉に、サラはさらに顔を赤くして、叫んだ。

 「な――!あ、あんたも、る、ルウのことが……!しかも、マスターって、なによ、マスターって!そんな呼び方するんじゃない!……も、燃やす!あんたみたいなラブドール、焼き尽くしてやるわ!」

 掌の火炎を一層大きくし、トレースに肉薄する。





 ―――と、そこで。






 「ククク……ずいぶんと、楽しそうだな?」

 声が、上から聞こえた。

 「―――!!」

 さっきまでの和気あいあいとしていた雰囲気を一瞬で消し飛ばす、その雰囲気。

 今までのやり取りを完全に無視し、敵を一刻でも早く捉えようと3人は同時に顔を上げた。

 自分の姿が3人の視界に入ったことを確認すると、悪魔のような翼をはやした黒髪の少女は嗤いながら、言った。

 「ククク……さて、自己紹介、と。私の名前はシイナ(・・・)レイル(・・・)ジェイド(・・・・)だ。――もちろん、『イノベート』所属の、ね」

 底冷えするような威圧感と共に、ルウ、サラ、トレースは敵と邂逅した。
















 ――――邂逅と同時刻、柊、帝両家正門前―――





  

 柊、帝の両家はひとつの敷地内に存在している。

 日本独特の屋根瓦に、木造作りの豪邸。日本人はこれを見ても『大きい家だなあ』とは思っても『豪華だなあ』とは思わないだろう。

 それほどまでに様式美を追求した家屋なのだ。日本古来より伝えられてきた建築方式……それに、現代科学の粋を集めて建てられたのが、この両家。

 正門に始まり、グラウンド並みの広さのある庭、何百人と寝泊まりができる住宅部分。

 その広大な庭に、二人の男女が何かを待つように立っていた。

 男は大体17歳ほどで、背が高く、がっしりとした体格 である。

 赤茶けた髪に、茶色の瞳の彼の名は、タクト・ペンタグラムと言う。

 女の方は、うっとりするほど美人だ。漆黒の髪に、茶色の瞳。全体的なプロポーションも整っていて、立っているだけで絵になる。

 彼女の名は、ミリア・ペンタグラムと言って、琴乃若を代表する占い師であり、私立玻座真(はざま)学校の生徒会・・・顧問・・なのだ。

 クレアが彼女の姿を生徒会で見れなかったのも無理はない。彼女は教師で、放課後も教務に忙殺されていたのだから。

 「……なあ、ミリア」

 長男、タクトがぶっきらぼうに、心底めんどくさそうに言った。ミリアの方が姉なのだが、タクトは『姉』と呼ぶことはしなかった。

 別段ミリアも呼称を改めるように言っていないのだが。

 「なに、タクト?」

 こちらもぶっきらぼうに……と、いうよりは作業に忙しくて構っていられない、という具合だ。何も持っていないが、その顔は真剣そのものだ。

 未来を見通し、どうすれば最善かを読んでいるのである。

 「……まあ、いいか。未来読むのに夢中なんだろ?」

 「そうよ。今から10秒後にシイナ(・・・)と名乗る『イノベート』の少女が来るわ」

 「十秒後って、すぐじゃねえか。……まあ、いいか」

 のんびりと、タクトは棒……まるで、指揮者がもつ棒っきれのようなものを取り出した。

 「……拓人がタクト振るって戦うなんて……面白い冗談ね?」

 「……うるさい」

 タクトの能力である空気を操る力は、制御が難しいため制御用の何かが必要だった。

 音楽にある程度興味のあった彼は、気まぐれで指揮者の持つ指揮棒タクトを持ってみた。

 すると面白いように思い通りに操れたのだ。それ以来、戦闘には指揮棒を持って臨むようになった。

 



 「……ククク、二人だけか?」

 



 突如そう言って現れた少女に未来を見通すことのできるミリアは見向きもせずに作業を続けていたが、タクトはそうではなかった。

 しっかりと、敵を視認する。

 この時、二人は知るよしもなかったが。















 その敵は同時刻ルウ達のところに現れた、シイナ・レイル・ジェイドと寸分違わぬ姿形をしていた。











 新キャラ登場、シイナ・レイル・ジェイド。二人の彼女には一体どんな秘密が隠されているのでしょうか?そして、一方無防備な祟家は一体どうなるのか!?

 次回、お楽しみに!

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