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第21話〜報告〜

 「……実に残念なお知らせがある」

 生徒会全員がそろった部屋で、悲しげなトレースの声が響く。

 彼女は誇張抜きで疲れた顔をしていて、道具のはずなのにとても人間くさかった。

 「祟、帝の二家に街の守護をもちかけたのだが……断られた」

 その言葉にみんなが戸惑うより前に、ララお姉ちゃんが蔑むように言った。

 「…………………………使えない道具。この世界はあなたの支配下にあるはず。あなたの命令を聞かないという思考は存在しえないはず。それなのに……なぜ?」

 氷よりも冷たい視線。それに当てられても、態度を少しも変えずに、トレースは言う。

 「彼らも彼らの生活がある。正直言って、祟はそれほど強くない。どこまでいってもヤクザが強くなった程度だ。異世界の戦闘にはついてこれないと判断して、強制支配を取りやめた。……どうだ?これで文句はないだろう?と、いうか今キミのご機嫌をとっている場合じゃないんだ」

 トレースは珍しく焦っているようだった。主人の家族のご機嫌をとっている場合じゃないって……どんなに緊迫した状況なんだ?

 「先ほど、琴乃若の街、柊家、帝家、祟家、そしてこの学園、それぞれの半径1キロ以内に不審人物―――『イノベート』を名乗る人間が同時に出現した」

 ……は?

 「なによ、それっ!!普通真っ先に言うことでしょ!?なに平然と言ってんのよ!」

 私は呆れながら叫んだ。なに、こいつ?どこが万能の道具?人格持ってる分、性能低下してるんじゃないの?

 「……すまない。ボクは今からキミ達に強制的に役割のところに送らせてもらう。……残念だが、拒否権はなし、だ。……かさねがさね、すまない」

 「……トレース、君は」

 お父さんが何かを言いかける前に。


 フッ――


 と、私、コトリお姉ちゃん、リリーお姉ちゃんを除く全員が、生徒会室から文字通り消えた。

 私は戦闘が始まると聞いて不安そうにしている二人のお姉ちゃんを見て、大丈夫かな、と真剣に思い始めていた。

 「……敵が、来たんだ……」

 とくに酷いのはコトリお姉ちゃん。完全に……怯えている。

 彼女だって長く生きる旅人で、私よりもずっと強いのに。

 「大丈夫だって!私もコト姉も、長寿の旅人なんだからさ!経験が勝利を約束してくれるよ!」

 自分だって怖いはずなのに、気丈に振る舞ってコトリお姉ちゃんを励まそうとしているリリーお姉ちゃん。

 二人の体はわずかだが、震えていた。

 それを無視して、私は言う。今は、感情なんていう些事に気を取られている場合ではない。

 「……とにかく、行こう」

 少しでも気を抜いたら震えそうになる体を必死で抑えつけながら、私は生徒会室を出る。

 ……今や戦場と化した世界を護るために。















 戦う前から精神状態が良好でない私たちが生徒会室を出て最初に見たのが、廊下に気持ち良さそうに眠っている沙耶だった。

 「沙耶っ!?」

 私は横たわる彼女に近づき、抱き起こす。

 けれど、目覚める気配は一向にしない。かすかな魔力も感じるのだから、いっそうに心配になる。

 ……もう、敵襲!?

 「気にしちゃだめ、それ、トレースの催眠だから。コトが終わるまでは、『死んでも』目覚めないわ」

 リリーお姉ちゃんの言い方に、どこか引っかかった。

 「……『死んでも』?」

 「そうよ。例え死ぬような目に遭っても目が覚めることはない。そういう風にできてるの。この世界の人たちは」

 ……つまり、世界の危機が迫ったとき、力のない一般市民は眠らされるのか。酷い話だとは思う。けれど、下手に騒がれて状況が悪化する可能性もある以上、これも仕方ないのかもしれない。

 「……とにかく、行きましょう」

 沙耶を廊下に優しく寝かせて、私は廊下を下駄箱に向かって歩く。

 二人はついてこようとせず、リリーお姉ちゃんが止めた。

 「どこ行くのよ。『イノベート』がどこにいるか、分かってるの?」

 ぴたりと、私は足をとめる。

 「……今からそれを探るの」

 私はコートの中に手を入れ、『それ』を探す。

 私のコートの中はそれなりに整理しているので、『それ』はすぐに見つかった。

 『それ』を取り出す。まるで学者が自説を学会に発表する時のような緊張感と共に、『それ』の名前を言う。

 「……『サーチペンデュラム』。ある特定の何かを探し出す、一種のダウジングマシンよ」

 私が取り出したのは、水晶を三角錐にしたものをピアノ線で吊るした物。

 「……そんなので探せるの?」

 リリーお姉ちゃんが不安そうに訊いた。まあ、小学4年生の自作・・の道具に対する信用なんて、そんなものだろう。

 「ええ。……その性能は、100キロ先の鳥の群れを見つけれるほどよ」

 試したことのない道具なのでハッタリだが、それぐらいの自信はある。

 気の変化を探る純度100%の水晶に、指針を示す効果のある魔法をお母さんにかけてもらったのだ。敵の位置を探るぐらい、朝飯前だ。

 「……見つけた!校門前!」

 『この世界全体に敵意を持っている者で半径1キロ以内にいる者』と条件づけたらすぐに引っかかった。

 私はその結果を一ミリも疑うことなく、結果がでると同時に走り出していた。

 














 ……私がみんなを守るんだ!

 







 そんな安っぽい正義感も、今は悪くない、と思えた。

 

  

 

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