第20話〜言訳〜
私は呆れていた。
「……で、その数々の武勇伝から、炎術士、と呼ばれていすのですわ!忘れていけないのは、ララ様です!『白雪の薄幸姫』と呼ばれる由縁は……」
「ちょ、ちょっと待って!」
私は教室にて、風羽から生徒会に所属する人間の評価を聞いているのだが……
「なんですの?これからですのよ?」
「い、いや、通り名とかはいいから、もっと別の!人柄とか、そういうの教えて!」
さっきから『銀の薔薇』だとか『白髪の紳士』だとか『赤髪の炎術士』などの通り名ばかりを聞かされている。正直、どうでもいい。私が知りたいのはそういうことではなくて、この人のここがいいとか、こういうところがダメだとか、そういうのを聞きたいのだ。
……まあ、生徒会が通り名の見本市だということはよくわかったが。
「……そうですの。まあ構いませんわ。では、ララ様なんですが、あの無口さと無表情さ!そして何より、不幸そうな雰囲気!」
声高に言っているが、失礼だとは思わないのだろうか?人の家族捕まえて『不幸そう』って……
それに、いうほど無口ではない気もする。
「……なにやら不満そうですわね?……そうでした、あなたは実物を見ていらしたのですね」
ほ。ようやくそれに気づいてくれた。これで迂闊なことは言えないだろう。
「では、教えてくださいませ」
「は?」
私は我が耳を疑った。まさかそんな、
「わ、私にトレースたちのことを、教えろと?」
首を振ってくれ、たのむ、首を振って!訊かれたら絶対ボロがでるから!家族に迷惑かかるから!
そんな気持ちで言ったのだ。それをこいつは
「ええ。ぜひともお願いしますわ。……もちろん、生徒会長のことを呼び捨てにする理由も含めて、ですわよ?」
とびっきりの笑顔で、そう言ったのだった。
……ああ、どういう風にでっちあげよう?
「えっと、大丈夫?」
昼休み。生徒会室の前までついてきてくれた黒月沙耶は、私に心配の声をかけた。
「……なにが?」
私は訊いた。なぜ、大丈夫などと訊かれなければならないのだろう?私はいたって健康で、どこも問題はないというのに。
「えっと、気付いてないのかもしれないけど、クレア今すっごい疲れた顔してるよ?」
「……そうかも」
私は力なく答える。
疲れたのには理由がある。さっきまで休み時間の度に質問されていたのだ。
朝の休み時間は「あと、えと、その……」とかやってる内に終了。次の休み時間もおんなじ感じ。3時間目の休み時間になってようやく、うまい言い訳が思いついた。
私とトレースは幼い時から席を同ずる親友だった――
はい、どう考えても矛盾しまくりのこの言い訳、苦しいか?と一瞬思ったが、意外とみんなに浸透した。
なぜなら、トレースの存在そのものが伝説化しているため、私生活を知る人間が一人もいないから。
それはそうだろう。トレースの存在は私たち『ペンタグラム』の人間しか『見たことがない』のだ。知りようがない。
そんな背景があるからこそ、私の『昔私はここに住んでいて、その時に一緒に遊んでもらっていた』という嘘が通ったのだ。
トレースが謎に包まれていたからよかったものの、もし知られていたら、この嘘は通用しなかったことになる。
……沙耶や風羽に嘘をついた、というのが心苦しいが、これも仕方ないことなのだろう。
「とにかく、心配してくれてありがとう。……行ってきます」
私はけだるげなまま、言う。
「行ってらっしゃい」
沙耶は、ただ笑顔で、励ますようにそう言ってくれた。
その言葉で、私は気を引き締める。これからは旅人の領域。私が、戦う場所。
世界はなにがなんでも、護る。
この世界にいる沙耶を、護ってみせる!
私は生徒会室の重厚な扉を、開いた。




