表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/82

第17話〜招集〜

 次の日。

 私は登校してすぐ、生徒会長……トレース・トレスクリスタルに呼び出しを受けた。

 みんなからはまた誤解を受けたけど、まあ沙耶にだけは事情を伝えてあるからそれでいい。どうせすぐ誤解なんてとけるだろうし。

 昨日と同じく、円卓のように並べられている長机がある無駄に広い生徒会室に、私は朝からいるわけだ。

 「さて、今日キミを呼んだのは他でもない。少し生徒会役員の紹介がしたくてね」

 私が生徒会室に入るとすでトレースは傲岸不遜に席についていた。生徒会長らしく、上座に座っている。

 彼女はまるで人間のように振る舞っているが、人間ではない。

 全てを支配し、思うがままに操る秘宝、トレスクリスタルの人形。

 もっとも、彼女の生い立ちを鑑みれば、作り出された人形と言うよりは、トレスクリスタルそのものが変化した化身と言ったほうがふさわしい。

 彼女はこんなにも傲岸不遜、傍若無人な態度なのに、人の奴隷、道具でいることを望む少し(少し……かな?)変な人。まあ、個人同士の話しなので私はもうどうも思わないが、昨日はそれでもめた。私はトレースがいやいや奴隷をやらされているものだとばっかり思って、お父さんを問い詰めたのだった。

 ……実際は彼女が強硬ともとれる手段で勝手に奴隷になっただけだったのだから、始末に負えない。もう勝手にやってろ、という感じだ。心配した私、バカみたいじゃない。

 私はどこに座ればいいのかわからないので、立ったまま話を進める。

 「……こんな朝っぱらから呼び出す意味がどこに?その用事なら別に今じゃなくてもいいじゃない」

 私は至極真っ当な意見を言ったつもりなのだが、トレースは異星人でも見るような目で、私を見た。……なんかむかつく。

 「信じられない。キミ、本当に学生か?普通なら『さぼれてラッキー』と言うものだろう……少なくともボクはそうだ。……そして、彼らも」

 なんかめちゃくちゃダメなことを真顔で言われても困る。生徒会長がそんな認識でどうするというのだ。

 「ハン!あんたこそ本当に学生?学生とは勉強して然るべきでしょうが。学校に行けるってことがどんなに幸せなことかわかってんの?」

 「キミは本当に小学生?そんな認識で学校に来ている人間、一体どれほどいるんだろうね?」

 「知らないわよ。結構いるんじゃないの?全校生徒の半分ぐらいは最低でもいるでしょうね」

 「キミって意外なところでファンシーなんだね。そんなわけないだろう。たぶんそう考えてるのはキミ一人だよ」

 「なら、ここの生徒はどうかしてるわ」

 学びたいのに学べない苦痛ほど、堪えるものはない。そんなことは身に染みて理解している。あの牢屋にいる時はもし、学校にいけたら、と何度夢想したことか。

 そんなやり取りをしていると、生徒会室の扉が開いて何人かの生徒が入ってきた。

 「……トレース。重要な案件って、なに?」

 一番最初に入ってきたのは、トレースの『持ち主』にして私のお父さん、ルウ・ペンタグラム。

 「ねえ、なんかあったの?」

 その後ろに恋人のようについているのは、お母さんことサラ・イーストスカイ。

 恋人の『ように』と表現するのには、理由がある。

 お母さんは、お父さんのことが好きだ。

 そんなことは一緒に生活していればすぐにわかるぐらい露骨に出ていた。それに気づかないお父さんもお父さんだが。

 でも、お母さんはいつまでたっても告白しない。しかも、しようとすらしない。

 どこまでいってもいつまでたっても『友達以上恋人未満』。

 だから、恋人の『ように』になるわけだ。

 「で、私は何をすればいいのかなっ?」

 そう元気よく訊くのは、背が私とおんなじぐらいの黄色の髪がよく目立つ高校生、リリーお姉ちゃん。

 瞬間移動ができる、元気はつらつなお姉ちゃんだ。そういえば私がお父さんに引き取られたときに自己紹介しあったんだけど、すぐにどこかへ行ってしまったんだった。

 んで、リリーお姉ちゃんとはこの世界で再会した。引っ越してから三日後ぐらいに挨拶にきて、一緒に住むことになったんだ。

 他にも一緒に住む人は増えた。ミリアお姉ちゃんに、リリーお姉ちゃんに、そして……

 「…………なんの用、道具」

 何故かトレースに嫌悪感まるだしの、ララお姉ちゃん。

 白い髪に無表情はいつものことなんだけど、その表情豊かな声には、尋常ではない嫌悪と怒気と殺気が交じっている。

 今のララお姉ちゃん、怖い……

 普段は気のいいお姉ちゃんなんだけど、なんでだろう?

 「はいはい、そんなに殺気立たない。お姉ちゃん、悲しくなっちゃうな〜」

 そう言ったのは、綺麗な金髪の、コトリお姉ちゃん。

 彼女もこの世界にいて、私たちと一緒に生活することになったお姉ちゃんの一人だ。

 ……そして、最後に一人。

 「……さすが内輪生徒会。呼び名が全部家と変わらんな」

 赤茶けた短髪に、茶色の瞳。長身痩躯で、体つきはがっしりとしている。

 声は低く、まるでホラ貝を吹いた音のよう。

 「……なんだ、クレア?まだ俺が怖いのか?……まあ、いいか」

 なんでもかんでもまあいいかで済ます超がつくほどのめんどくさがり。

 「……あなたも、生徒会に入ってたんだ」

 「……生徒会っつっても、内輪オンリーの家族会だがな」

 そう言って煙たそうにお父さんたちを見つめるのは。

 


 五芒ごぼう 拓人―――

 本名、タクト・ペンタグラム。

 一緒には暮らしていないけど、この人はれっきとした『ペンタグラム』の長男。

 ミリアお姉ちゃんの次に引き取られた、『空気を操る力』を持つ、長寿の旅人。

 それが何を意味するか……。
















 つまり、彼は私のお兄ちゃん、ということだ。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ