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第16話〜親友〜

 その日の深夜、2時。

 ルウの家の屋根の上に、2つの人影があった。

 瓦の屋根にまるで地面に座るかのような自然さで胡坐をかいている二人は、楽しそうに話している。

 「まだ君は趣味、続けてるのかい?」

 二人を照らすのは、綺麗な円を描く月のみ。

 「ん?もちろんだ。趣味とは、続けてこそだからな。逆に言えば、続けばなんでも趣味になりえるのさ」

 そう哲学的に語るのは、全身黒マントの怪しい吸血鬼、リンク・ソル・ジェイド。

 黒髪に黒目なので、闇に同化しきっている。黒以外の色は、顔の肌色のみ。

 全体的に整った顔立ちをしており、美少年のルウと並んでも全く引けをとらない。

 「ふうん……じゃあさ、今やってる性格、やって見せてよ」

 リンクの趣味……それは、『気分で性格、および口調を変えること』。

 永遠を歩むリンクは、ただ普通に生きていたのではすぐに飽きが来る。

 だから、わざわざ危険に身をおいても、全然充実しない。

 そこでルウが提案したのは、『性格を変えてみる』こと。

 性格とは、人間を構築する重要な部分。それをあえて変えることで、新しい人生を歩む気分を味わう。その提案に乗ったリンクはそれを趣味に発展させるほどはまりこんだ。

 ……おそらく、変えた性格で彼の妻、エリアがどんな反応をするかが楽しみだからだろう。

 「ん?だめだめ。俺が変えた性格を見せるのは、エリアの前と、お前ら家族以外の前だ。ルウ、お前らの前だけは、俺のデフォルトでいいだろ?」

 リンクはいつもそう言ってルウに変えた性格を見せることはなかった。気恥ずかしいのか、それともただたんに自分の『元』を消したくないのかはわからないが。

 「そう。別に無理強いするつもりはないよ。……あ、そうだ。忘れてた。リンクに言っとかなきゃいけないことがあるんだ」

 ルウは納得すると、即座に話題を変えた。

 「なんだ?」

 「いや、うちの娘に手を出さないでくれるかな?」

 は?と、リンクが凍った。

 「まてよ。誰がそんなことするか。サラちゃんならまだわかるが、よりにもよってお前の娘に手を出すなんてこと……」

 リンクはそう弁解するが、

 「……クレアって小学生ぐらいの女の子、食べようとしたでしょ?」

 そのルウの言葉で、ピンときた。

 リンクは吸血鬼。血を吸う、というのは自身を構成する『血の力』を集めることにほかならない。なり立ての吸血鬼などは血の力が足りないため、多く吸血する必要があるが、年長の吸血になどは一年に一回ペースの吸血で事足りる。リンクもその年長の吸血鬼の一人なのだ。

 「あ、その子ってやたらに警戒心の強いこんな夏にコート着込んだ女の子?」

 「うん。僕の娘。最近迎え入れたんだ」

 「へえ、また新しい子入れたんだ。……お前も、つくづく物好きだよなあ。普通、ほっとくぞ?」

 呆れたようにリンクは言ったが、ルウはまったく気にも留めずに、、続ける。

 「だから君は万年暇なんだよ。子供を育ててみなよ、きっと暇つぶしにはなると思うよ?」

 ルウの言い方は自然で、言われたリンクも一瞬、あっけにとられた。

 「はあ!?お前、暇つぶしで子供育ててたのかよ!?最低じゃねえか!?」

 「まさか。僕は放っておけなかったから引き取ったんだ。趣味とか、暇つぶしとか、そんなんじゃないよ。……たださ、あまりにもやることがないなら、そうやって慈善活動でもしたら、って意味だったんだけど……」

 今度も、ぽかんとなるリンク。

 「あ、なんだ、そうだったのか。てっきりお前が『優しそうなお父さんキャラの振りした最低野郎』かと思ったぞ」

 リンクは嘆息してそう言った。

 ルウの優しさ……つまり、ほっとけない、なんて理由で孤児院レベルまで子供を集め、育てあげれるその能力に、素直に尊敬していたのだ。

 「あはは……僕ってそう見える?」

 「まさか」

 リンクは笑顔で否定する。

 「お前はいいやつだよ。長い付き合いだからな。それぐらいはわかる。で、俺はそんなお前の頼みならいくらでも聞いてやりたいんだが……」

 リンクがこの世界にこれたのは、ルウが『招いた』から。

 リンクは最強の吸血鬼。ほとんどの弱点を克服した、めったにいない希少種とも言っていい。

 彼に寿命はなく、物理攻撃は効かない。太陽の下だって大手を振って歩けるし、教会で懺悔することだってできるし、ニンニクがたっぷり入った餃子ぎょうざだって食べれるし、夏はエリアと一緒に海水浴にも行くし、どこでも寝れるし、白木の杭なんか痛くもかゆくもない。

 しかし、ただひとつ克服できなかった弱点がある。

 吸血鬼は『招かれないと新しい土地に行けない』という弱点がある。それだけは克服できなかった。その『新しい土地』には異世界ももちろん入る。

 つまり、異世界を移動するには誰かに『招かれ』ないといけないのだ。リンクは基本的に暇なので呼ばれたらとにかく行く。 

 そして今回は『頼みがある』とルウに呼ばれたのだ。

 「……簡単なことさ。一緒に学校へ行かないか?僕だけじゃちょっと不安なことがあってね」

 酷く不安そうに、ルウは言った。

 リンクがこんなにも弱気なルウの顔を見たのは初めてだった。

 いつもルウは強気で、けして不安だ、などとは言わなかった。

 リンクはそんな、弱くなったともとれる変化を嘆くことなく、言う。

 「いいぜ。まあ、3年間ぐらいだったら、別にいいぜ。お前と学校に通うってのも面白そうだしな。……じゃあ、今日はこれで。やることができたんでな」

 そう言ってリンクは立ち上がった。

 そして、一息気合いを入れると、背中から黒いマントは破らずに、悪魔が生やすような翼が一対。

 「……リンク、ありがとう。エリアさんによろしく言っといて」

 「おう。じゃあな!」

 リンクはそのまま飛びあがると、ルウがまばたきする間には空高く、米粒ほどになっていた。

 












 「……これで、少しは大丈夫かな?」

 いつになく不安げに、ルウは呟いた。


 

 

 

 


 はい、どうもお読みいただきありがとうございます。

 わからない人もいる可能性もありますので、キャラ紹介を少し。

 エリア・ルナ・ジェイド

 長髪の青髪青瞳の外見16歳ほどの少女。

 リンクを影から、あるいは表立って支える器量よしの妻でもある。

 異世界から寄せられる依頼をこなす『異界士』をリンクと二人で営んでいる。

 普段、仕事の話をする時、仕事中、で口調が変わる。リンクの趣味はここから来た可能性も。

 好きなものはリンクで、趣味はリンクの趣味を見ること。

 彼女のほとんどは、リンクが占めている。

 よく使う武器は死神が使うような長大な鎌。

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