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第15話〜返答〜

 私はお父さんの部屋の入り口で、ソファでゆったりとくつろいでいるお父さんに拳銃を向けている。

 普通の家庭なら警察沙汰なのだろうが、私の家は幸いなことに普通じゃない。

 私は文句がある時はいつもこうやって拳銃片手に、でもけして撃たずに話しあう。

 弱い立場の私はこうでもしなければ話し合いなんてできない。

 もし、拳銃これがなかったら、お父さんはいつでも暴力をふるえる。そんな一方的な暴力を、この拳銃は防いでくれるのだ。

 「……説明なら彼女からしてもらったと思うけど?」

 お父さんはしれっとそんなことを言う。

 「聞いた!でも、お父さんからも聞きたいの!お父さんがトレースをどう思っているのかが、知りたいの!」

 お父さんもトレースのことは体のいい奴隷とか思っているのだろうか?いつでもなんでもどんなことでもできる道具だと、思っているのだろうか?

 「僕がどう思っているか?僕にとってトレースは仲間であり、友達であり、弟子であり、兄妹であり、道具であり、奴隷であり……とにかく、一言で言い表せるような関係じゃないんだよ」

 「そんなふうにして、はぐらかさないで!」

 お父さんが言いたいのはつまりこうだ。一言で言い表せれない。だから訊くな。そんなものでは、私は引っ込まない。

 「……ふうん。そんなに言うなら話してあげる。僕が彼女を奴隷として扱うわけをね。

 僕は最初君みたいに、彼女人として扱おうとしたんだ。でも、どれだけ言っても何度言っても『命令を、命令を』ってバカの一つ覚えみたいに繰り返してたんだよ。今の彼女は人間らしいけど、最初は本当に人の姿をした道具って感じだった」

 そう言うお父さんは真剣で、とても嘘を言っているようには見えない。

 「だからね、こう言ったんだ。『そうだな、じゃあ命令を与えよう。君は自分で考え、自分で行動し、自分で生きれる人形になれ』ってね。……僕なりの解雇通告だったんだけどね、トレースはそうとらなかった。急に人格レベルが上がったかと思えば、ひざまずいたんだ」

 その時の様子はトレースの話しにも出てきたので、よくわかる。……ってか、あの人いろいろと端折りすぎだろう。自分とお父さんの仲をアピールしたかったのか?

 「……正直、今でも覚えてるよ。一言一句思い出せる。なにせ、衝撃的だったからね。

 

 『乾きし時にはボクの血を。飢えし時にはボクの肉を。罪はボクが、とがもボクが、疫さえもボクが背負う。ボクの誉れの全てをキミに、ボクの栄華の全てもキミに。

 盾として、剣としてキミの前を歩く。キミの喜びを共に、キミの悲しみも共にしよう。斥候としてキミと共にゆこう。キミの疲弊はボクが癒す。ボクはキミの手となり、敵を討ち、キミの足となり地を駆ける。キミの目となり敵を捕え、全てをかけてキミの情欲を満たし、全霊をもってキミに奉仕しよう。キミのために名を捨て、誇りを捨て、心を捨て、感情を捨てて、理念さえも意思すらも捨てよう。ボクはキミを愛し、敬い、キミ以外の何も感じない。キミ以外の何ものにもとらわれず、何も望まず、何も欲さない。キミの許しでは眠ることも呼吸することもない、ただキミの言葉のみを求める、キミにとってまるで取るに足りない一介の下賤な道具になることを、ここに、誓う』

 ……ね、ずいぶんな文句だろう?ここまで言われたら、むげに断ることもできないだろう?」

 私は頷く。ここまで言われていたのなら、分からなくもない。口ぶりかするに、だいぶ昔、それもミリアお姉ちゃんにも出逢う前だ。

 愛の告白も交じってるこの文句、トレースの心情にはぴったりだな。

 「……で、僕は仕方なく了承して、今に至る、というわけさ。分かってくれた?」

 分かった。理解した。でも。

 「なんでまだ奴隷のままなの?」

 その時だけ仕方なく、なら解雇すればいいではないか。

 「……僕だって、奴隷なんてやめて欲しいさ。僕だって、心苦しい。でも、『契約を解除してくれるのならそれでもいい。……ボクは無に還るから』とか言われると、やめるにやめれなくて……」

 ……それは、トレースが卑怯なだけだろう。…つまり、今トレースが奴隷なのは完全に彼女の意思なわけであって、望んでなっている、と。

 「……まあ、納得したわ」

 私は拳銃を下ろした。今さらになって、なんでお父さんに突っかかっていったんだろうと疑念がわく。

 だって同じ疑問、はトレースにもうしたのだ。それなのに、なぜ、わざわざ二度手間になるようなことを?

 「……どうかした?」

 あ、そうか。私、お父さんと話したかったんだ。信じきれなくなったから、トレースと言っていることが一致するかどうか、確かめたかったんだ。

 「あ、あといっこ質問。なんでお父さん、学校にいたの?」

 あと、質問と言えばこれぐらい。

 「僕もあの学校に通ってるからだよ。サラもミリアもそうだよ」

 ……うそ!?

 「うそ!?お父さん、学校行ってるなんて一言も……」

 「ああ、それはね、別にわざわざ知らせなくても、学校で会った時に説明すれば済むことかなって……それに、驚かせたかったし……」

 いつも最後に茶目っけがでるよね、この人。

 まあ、疑惑も晴れたことだし、もう休もう。部屋で少し休んで、ご飯食べて、お風呂入って、眠ろう。

 「じゃあ、ご飯できたら呼んでね。私部屋にいるから」

 私はきびすを返し、言った。

 「あ、そうそう。お父さん、この辺変質者でるから気をつけた方がいいかも」

 最後に、あの痛い人のこと、言っとかなきゃ。

 「……変質者?」

 「そう。なんて言ったかな、リンク・ソル・……なんとかって名乗ってた」

 私がそう言うと、お父さんは急に、

 「ふふふ………あはははははははははは!」

 珍しく本気で笑った。

 「ど、どうしたの?」

 気になったので訊いてみる。てか、本当になんで?なにか面白いこと言った!?

 「いやあ、ごめんね。クレア。それは……」

 次の言葉で、私はまた、疑問が増えるのだった。















 「彼は永遠を生きる吸血鬼。『異界士』にして、僕の古くからの友人だよ」

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