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第14話〜詰問〜

 クレアが出ていってからの生徒会室――


 「……これでよかったのかい、ルウ?」

 一人残ったはずのトレースは、何もない空間に語りかける。

 本来なら、返事は返ってこないはずだった。

 しかし、トレースの後ろから、声はした。

 「うん。ありがとう、十分だよ。本当に、助かった」

 声は、トレースそっくりの少年、ルウ・ペンタグラムだった。

 ルウはこの学校の制服を着ていた。それはルウがこの学校の生徒であることを意味し、その胸元につけられた生徒会バッジは、ルウが生徒会の人間であることを証明している。

 彼はあらかじめ話が終わったら生徒会室へ自分を転送するように指示しておいたのだ。

 「そうか。役に立ててうれしいよ。……ところで、なぜ、試験なんか?他の娘の時はしていなかったのに」

 クレアに言ったのはほとんどが嘘八百だった。

 トレースという道具の存在を知っているのなんてミリアぐらいだし、もちろん試験なんて一度もしたことがなかった。

 それなのになぜ、クレアだけが試されたのか。

 「……クレアはね、不安定なんだ。子供らしい面と、大人っぽい面がころころ変わる。だから、『イノベート』に付け入られたり、脅されたりしないかな、って心配になったんだ」

 ルウはクレアが出ていった扉を見据える。まるでその扉から未来を見るかのように。

 「あの子はきっと、『イノベート』かそれに近い人間に利用される。それを防ぐのは、僕でも、君でも、サラでもない。あの子自身なんだ。『力』は十分。なら、あとは『心』だけさ。ちゃんと、判断できる心を持っているか……それだけが見たかったんだ」

 トレースはそこまで聞くと、ふと、疑問に思ったことを口にした。

 「……なら、もし試験に失敗していたら……どうするつもりだったんだ?まさか殺すのか?」

 ルウは首を振った。

 「まさか。どんなに愚かでも僕の娘だよ。『生きたい』と思っている以上は、僕が手を下すことはないね。……まあ、旅人にするつもりは、ないけど」

 つまり、あの試験はルウの娘かどうかを試すものではなく、旅人としてやっていけるかどうかを試すものだった、というわけだ。

 「そうか。……そうだ、ルウ。家まで送ろうか?」

 突然、トレースはそう提案した。

 「……なんで?一人で帰れるよ」

 ルウは楽を好む性格ではないので、それを断った。トレースの言う『送る』、とは家まで一緒についていく、ではなく文字通り『転送』するのだ。家まで誤差一秒で瞬間移動させる。それが、トレースの送る。

 「いや、クレアより先に帰りたいだろう?送らせてくれよ」

  なおも食い下がるトレースに、ルウは冷たく、

 「いい、と言ったんだよ?君は僕の言うことが、聞けないのかい?」

 そう言った。途端にトレースは青ざめ、

 「す、すまない。……悪かった」

 そう、とりもなおさず謝った。

 トレースにとってルウは主人であると同時に想い人。だからルウだけには従順で、一切逆らうことがない。そして嫌われたり、捨てられるのを極端に忌避している。

 平謝りのトレースにルウは微笑んだ。家族にも向ける、優しい笑み。

 「分かればいいんだよ。……じゃあ、僕は先に帰ってるから、リンクが来たら連絡して」

 ルウは生徒会室の重厚な扉をなんなく開くと、トレースに笑みを向けた。

 「……この世界、ずいぶんと心地いいよ。ありがとう、トレース。よくやったね」

 バタン。

 その音を最後に、ルウの声は完全に聞こえなくなる。この部屋は防音なので、外の音も一切入ってこないのだ。

 一人になった空間で冷静な瞳のまま、呟く。

 











 「……ルウ。キミのその一言で、ボクはもう、報われたよ」

 その時の彼女は、恋する乙女そのものの表情をしていた。








 






 


 私は家に帰ると、手も洗わずにいるはずのお父さんを探した。

 と、いっても二階建の4LDK、すぐにお父さんは見つかった。

 「お父さん……!!」

 自分の部屋で普段着のままソファにゆったりとくつろいでいるお父さんを見つけると、コートからとりだした護身用拳銃デリンジャーを向けた。

 「……帰っていきなり、何事だい?」 

 冷静にしらばっくれるお父さんに、私は吠えるように言う。

 







 「お父さんとトレースのこと、納得のいく説明をしなさい!」

 私はまだ、このことが許せなかったのだ。

 

 

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