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第13話〜帰路〜

 それからしばらく私とトレースは生徒会に関する話しをして、解散となった。

 新しい情報といったら、トレースが生徒会長だったということだけで、結局他はなにもわからなかった。

 いろいろ質問したのだけれど、全部はぐらかされた。

 「……く、くれあ?」

 釈然としないまま、部屋を追い出された私が最初に見たのは、目に涙を浮かべて生徒会室の前にいた沙耶だった。

 「……沙耶?なんでいるの?もう7時よ?」

 私の質問に答えることなく、沙耶は私に抱きついてきた。

 「えっ……さ、沙耶?」

 バランスを崩し、私は沙耶を抱きかかえたまま、尻もちをついた。

 「ひくっ……えぐっ……よ、よかった……クレア、死んじゃったのかと、思った……!生きてて、よかったよお〜!」

 ぽろぽろと、大粒の涙を流して沙耶は言った。

 「……大丈夫よ。私は大丈夫。だから、泣かないで?」

 私は抱きかかえた背中を、優しく撫でる。

 少しずつ、泣く声が小さくなる。

 「……クレア、どうしたの?大丈夫?ホントになんにもされてない?」

 「ええ。私は大丈夫よ」

 力強く、私は答える。沙耶にはそれで伝わる。

 「……帰ろう?」

 私の提案に、沙耶は目をぬぐいながら首肯した。















 「……でね、私生徒会に入ることになったの」

 私は帰り道、沙耶に生徒会室であったことを話していた。歩く道はもう十分に暗く、電灯の光のみが、あたりを照らしている。

 「へえ、トレースさんって言う人が誘ってくれたんだ。で?生徒会ってどんなことするの?」

 沙耶の何気ない質問に、私は凍りついた。

 ……こ、答えられない!

 いや、秘密だからとか、そんな理由じゃなく。

 私、活動内容を一切知らない!

 「えっと……その、ええっと……あの……」

 まずい。まさか知らない、なんて言えないし、沙耶に嘘は言いたくない。

 「もしかして……訊き忘れた、とか?」

 沙耶が苦笑いしながら言った。

 「そう、訊き忘れちゃって……ごめんね」

 私も苦笑で返した。

 「いや、別にいいよ。……あ、もう分かれ道だね」

 住宅街の丁字路で、沙耶はそう言った。

 「また明日、クレア」

 「また明日、沙耶」

 私たちそう言って、別れた。

 



 私は家までの道を警戒しながら歩いている。

 友達や両親と一緒ならそうでもないのだが、一人になるとどうしても昔の癖を思い出して、自分でも気付かないうちに警戒態勢に入ってしまうのだ。

 いつもはお父さんに警戒しすぎてはいけない、と言われているのでできるだけ警戒しないよう注意しているのだが……どうも、うまくいかない。

 しかし、今はそれほど後悔していなかった。

 「……やあ、お譲ちゃん。こんな時間にどうしたんだ?」

 みるからに怪しい全身黒マントの男が、家に行く道を遮っていたからだ。

 引き返して別の道から帰ってもいいが、それをしたらただでさえ遅くなった帰りがさらに遅くなる。

 「……今から帰るところよ。どいてくれない?」

 私がそう言うと、男は虚を突かれたような表情になった。

 「へえ、見たところ小学生だっていうのに、ちゃんと一人前の警戒心をもってるのか。意外だな。……それに免じて、襲わないでおいてやるよ」

 こんどは得意げな表情になってそう言うと、男はマントを翻し、闇に隠れた。

 「俺の名前はリンク・ソル・ジェイド!この夜を統べる王、吸血鬼だ!覚えておくがいい、お譲ちゃん!」

 痛い言葉を残して、残滓も残さず消えていった。

 ……なんだったんだろう、あれ?

 まあ、今は家に帰ることが優先だ。お父さんにも訊かなきゃいけないことあるし。

 しばらく歩いて、玄関まで辿り着く。どこにでもあるような一軒家だ。

 そこには漢字で『五芒ペンタグラム』とかいてある。

 インターホンは鳴らさずに、私は門扉を開け、扉をあけた。










 「……ただいま、お母さん、ミリアお姉ちゃん」

 私は、ようやく長い一日が終わったような気がした。


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