第12話〜再誘〜
「結果『だけ』なら違わないわ。でもそれってこじつけじゃないの?」
どうせ考えることお見通しなら、思ったことを口にしよう。そう思って言ったけれど、言ってから、あ、この人の能力もミリアお姉ちゃんと同じなんじゃないだろうか、と思った。
「ふむ、たしかにこじつけの部分もある。しかし、今はそれでいい。ボクが言いたいことは、もっと他にあるのだから」
なら、そのことをさっさと言ってくれと思う。私は早く家に帰りたいのだ。こうやって延々話を聞かされるために私の放課後はあるんじゃない。
「ここまで話してようやく、本題に入れる。さて、ボクは『イノベート』という名前をさも当然のように出したが、その活動本意を言えるかい?」
「……異世界を滅ぼすことでしょ?」
お母さんから『イノベート』には気をつけなさいと言われているので、記憶していただけだが。
「そこまで知っているなら大丈夫だ。……ボクがキミを試したのには、それが関係する。つまり、ボクが試したかったのは、『心の強さ』だ。彼らはあの手この手でキミを組織に入れようとするだろう。そのためにはキミの友人さえも使う。そしてそれに対してなんの感慨も抱かない。彼らは総じてそんな性格なのだよ。本題は、ここからだ。心して聞きたまえ」
そう言って、一度言葉を区切るトレース。
「クレア、生徒会に入らないか?」
「……は?」
どんな重大なことだろうと身構えていた私は、肩の力が抜けた。
「生徒会に入れって……さっき誘わないって言ったばっかじゃない」
「確かに言った。しかし、今度は条件が違う。何もあげれない。どころか、キミから何かを絞りとってしまうかもしれない。ボクが頼むのは、そんな危険で、残虐なことなんだ」
先ほど誘った時とは比べ物にならないぐらい真剣なまなざし。
「キミの力がどうしても必要なんだ。ボクと一緒にこの学園を、この世界を『イノベート』から護って欲しいんだ」
余計な飾り文句は一切付けず、要点だけを伝えてきたトレースの雰囲気はどこかお父さんに似ていた。
「……本当にそれだけ?もう、なにも企んでない?」
一度騙されたのだ。警戒するに越したことはない。
「ああ。ただ純粋に、一緒に生徒会で仕事をしようと言うだけだ」
トレースの瞳には、ある種の懇願のような色があって、すがるような目をしていた。それでも態度を変えないのは、彼女のポリシーかプライドか。
……今回、彼女は純粋に、試験の意味合いなしで、生徒会に入って欲しいと言っている。
……生徒たちを、守ってほしいと。
なら、答えはひとつだ。
「いいわ。生徒会に入ってあげる」
「そうか。ありがたい」
トレースは、そう言った。
それだけしか言わなかったけれど。
彼女が心底喜んでいると思ったのは、見間違いではないはずだ。




