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第11話〜返答〜

 私は、一瞬たりとも迷うことなく、トレースの問いに答えた。

 「私は、入らない」

 トレースは私の答えを聞いて、面食らったようだ。しかし、すぐに悪役面にもどって、言った。

 「ほう、なぜだい?キミは何もいらないのかい?快楽は欲しくないのかい?永遠の命は?きらびやかな服は?豪華な家は?至上の美食は?かしずく下僕は?……キミは、両親に恩返しがしたくないのかい?両親に恩返しをする方法は、これしかないんだよ?キミは力のない子供だ。そんな子供がどうやって両親に楽をさせてあげるんだい?生徒会に入って、全てを手に入れるんだ。そうすれば両親に恩返しができるよ?」

 そう誘惑するように言うトレースに、私は叫んだ。

 「バカにするな!」

 今度こそ、トレースは黙り込んだ。

 「ふざけるのもたいがいにして!私は愚かだけど、本当に大切なものを見失うほどじゃない!

 豪華な家なら働いて買う!きらびやかな服ぐらい、すぐにでも作れる!家族と一緒に食べる以上の食事なんてあるもんか!下僕なんて必要ない!私は自分のことは自分でできる!永遠の命なんて、疲れるだけだ!快楽なんて、いらない!

 恩返しの方法を、あんたが決めるな!私は私の方法で、私の考えで、私の価値観で、私が決めるんだ!

 お父さんとお母さんは、なんの苦労もせずに手に入れたプレゼントで喜ぶほど馬鹿じゃない!

 私のことを聞いただけみたいな情報で、判断するな!それ以上私と両親を侮辱するなら、殺す!」

 ふざけるな。私は愚か者のクレーシアの時から全く変わっていないわけじゃない。まだ、愚かだけど、本当に大切なことは何か、ちゃんと理解しているつもりだ。こんな、他人に与えられる世界なんかじゃ、絶対に幸せになれない。それぐらいなら、分かる。

 「………いいのかい?二度と誘わないよ?懇願しても入れてあげないよ?」

 まだしつこく勧誘するトレースに私はコートに手を入れ、忠告するように言う。

 「しつこい!次誘おうとしたら問答無用で撃ち殺す!」

 と、言いつつも私が握っているのはお父さんからのプレゼント、スタンガンだが。殺傷能力のないこれをプレゼントした、ということは、安易に殺すな、というお父さんの無言の忠告。

 それを守らない道理はない。

 「………くすくすくす……」

 急に、全ての緊張を解きほぐす笑い声が聞こえた。

 「あはははははははははは!」

 トレースが、声高に笑ったのだ。

 今までの明らかに悪役っぽい嗤いかたではなく、本当に楽しそうな笑い声。

 「あはははははははははは!キミは面白い!本当に面白い!最高だ!」

 「な、何よ急に……う、うつわよ?」

 さすがに不気味なので、脅して言う。

 「あはははは!スタンガンでどうやって撃ち殺すんだい?聞かせてもらおうじゃないか!あはははは!」

 「なっ……!」

 顔が真っ赤になる。なんかめちゃくちゃ恥ずかしい。

 「あははははは!本当、キミはいいやつだ!ルウの娘たる資格は十分だ!いやあ、本当に楽しい!キミになら冗談抜きで世界をあげてもいい気になってきたよ!」

 「ちょ、ちょっとまちなさい!」

 あまりにも笑い声が多いので聞き逃しそうになったが、気になる言葉があった。

 「あんた、今『冗談抜きで世界をあげても』って言ったわよね?」

 トレースはそう言った私に、ほめるように微笑んだ。さっきまでのキャラと正反対。ちょっと不気味。

 「そうだよ。今までのは冗談、というか試験だね。ルウの娘たる資格があるかどうかの」

 「お父さんの娘たるかどうかの、資格?」

 オウム返しに訊いてしまったのは、別に分からなかったからではなく、補足を求めるためだった。

 「そうさ。資格。実のことを言うと、ボクはルウの道具なんだが、彼の娘息子たちとかなり密接に関わっていてね。もちろんルウも既知のことだよ?勝手に行動する道具なんて、要らぬ問題を起こすだけだからね。何か行動する時は必ずルウに言わなければならない。……話を戻そう。ボクはキミを試した。そのためにキミの個人情報を見た。知られたくないであろう過去も含めて。それに関しては純粋にすまないと思う。本当にすまなかった」

 そう言って、トレースは深く頭を下げた。その様はあまりにも潔く、傲岸不遜な態度の彼女らしくない。

 おそらくそのギャップが私に、

 「……もう気にしてないからいいわよ」

 と、言わせたのかもしれない。

 「そうか。本当に悪かった。しかし、こうでもしなければいけない理由も、たしかに存在するのだ」

 「……その理由とは?」

 私は腕を組んで言う。なんかこの人には敬意を表さなくてもいい気がした。彼女も別に気にしてないので、同級生と同じと扱うようにしよう。

 「簡単さ。キミが興味を持った、能力さ」

 悲しそうに、自分の手のひらに視線を落とすトレース。

 「ボク達旅人の力は、異常なまでに強力なのが多い。その中でもさらに強力で絶対的なものを集めた勢力が、『イノベート』と『ペンタグラム』さ。方や異世界根絶を目指す排他集団。方や不幸な子供を救い、育てる孤児院じみた大家族。……その二つは完全に相反するものだと思うだろう?でも、『異世界の強力な能力者を集める』のと『能力が強すぎるゆえに行き場を失った子供を育て、家族にする』のとでは、結果に大した差はでない。ボクは『ペンタグラム』じゃないから数に入っていないけど、ボクに似た能力なんて、かなりある。過程は違っても、結果が一緒になるなんてこと、よくあることだよ。……ミリアとララが、その例かな?」

 ミリアお姉ちゃんは、未来を見通す『未来視』。ララお姉ちゃんは心を見透かす『心透視』。似てる能力だとは思えないけど……

 「キミはミリアと話していて、口にしようとしたことが先読みされたことはあるかい?」

 頷く。

 「そして、ララと会話すると、同じことをされる。つまり、言おうとしたことを読まれるわけだ。……さて、結果に違いがあるかい?」

 











 違う、と言いきれない自分に、なぜか腹が立った。

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