プロローグ
この作品は『異世界を渡る旅人達』の続編です。未読の方はそちらを読まれたほうがよろしいかと思います。
私がお父さんの娘になってから、3年近い時が流れた。
信じられないぐらい長生きのお父さんからしたらあまり長くはないのだろうけど、私の中では一番長く、幸せな時間だった。
お母さんと、ミリアお姉ちゃんと、お父さんと、私。
4人の旅は苦しいことや悲しいこともあったけど、とても楽しかった。
旅をして、いろんなことが知れた。
でも、お母さんが言うには私には教育が必要らしい。
なんでも、私には集団行動ができない、とか。
……集団行動なんてできなくても旅はできるのにね。
私はそう思うんだけど、他のみんなは違うみたい。
私に『学校』っていうところに行ってほしいらしい。
私はお父さんとお母さんに命を救われた。だから、お父さんやお母さんの望みは、できるだけ応えてあげたい。
……でも、男がいるところに放りこまれるのは、嫌だ。
嫌だけど、我慢しなきゃ。今の幸せな人生があるのは、二人のおかげなんだから。
そういったいきさつで、私は『学校』に入ることになった。
どういうわけか私は4年生から入るらしい。
確かに、私は10歳だけど、1年生になったことがないのに、いきなり4年生で大丈夫かな?
お父さんにそう訊いてみたら、
「4年生から入って大丈夫か、だって? 大丈夫さ。君は基礎の勉強は小さい時からしているし、精神も年齢以上に成熟しているしね。集団行動を学びに行くだけならどの学年に入っても一緒だと、僕は思うな。……それに、年齢もあるし。というか理由の全てな気がするよ」
とのことだった。
……お父さんが言うなら、大丈夫なのだろう。
なにしろお父さんは外見15歳なのに何十人もの養子をもつ、子育てには馴れきった人なのだ。
世界と世界を渡る、不老の父親……
銀髪の髪に、青の瞳。服装はいつも長Tシャツと長ズボン。
優しいし、かっこいいし、何より欲がない。
私は元の世界で虐待を受けていて、その影響で今でも男が怖いのだけれど……お父さんだけは別だ。欲がないから、警戒する必要もない。
お母さんも旅人で、同じく外見15歳の不老なんだけど、まだそんなに年を経ていないらしい。
赤い髪に赤い瞳の、かなり美人のお母さん。
火炎を自由に扱える能力を持っていて、戦いではいつもお父さんより強かった。
でも、まだ子供っぽい印象があるので、相談相手というよりは、気の合うお友達、みたいな感じだ(こんなこと思ってたら失礼かな?)。
「学校ってどんなところ? そうねえ。教科書的に言うなら、勉強するところかな。それだけじゃないけどね。……それだけじゃないから、問題もいろいろあるけど。ま、クレアなら楽しめると思うわ。この3年で、かなり常識が身についてきたからね」
なんでも気軽に相談できるのは、ミリアお姉ちゃんだ。
外見年齢は20歳ぐらい(実年齢はかなり長生き)。
長くて墨に染めたみたいに黒い髪に、綺麗な茶色の瞳。
背は高くて、女の私でも息をのむぐらいの美人さん。
私はいつも困ったことがあったらミリアお姉ちゃんに相談する。
長く生きているから、知恵や知識はいっぱいあるのだ。
「学校に行く意味? ……難しい質問ね。確かに勉強する、とか集団行動を学ぶ、とかそういう意味も確かにあるのよ。……でも、それだけじゃないの。教えてもらうこともあるけど、自分で学ばないといけないこともあるの。
友達の作り方とか、恋のしかたとかも、学校では教えてくれないけど、学校でしか学べないことよ。
だから、あなたは学校に行くべきよ。あなたは学校で教えてくれる勉強とかはちゃんとできるの。でも、それだけじゃ足りないの。あなたが学ぶべきは、その学校が教えてくれない、でも学校でしか学べないことなの」
ミリアお姉ちゃんは、そう言ってくれた。
『学校』でしか学べないこと。
それを、私は学びに行くべきだと、言ってくれた。
いつもなら、相談すれば不安や戸惑いは露みたいに消えた。でも今は違った。
お父さん、ミリアお姉ちゃんに相談してみても、不安が消えたわけじゃない。まだ、漠然とした、恐怖に近い感情が、心の中を渦巻いている。
……でも。
少しは、学校が楽しみになってきたかな。
やっぱり、相談してよかったな。
……ありがとう、お父さん、お母さん、ミリアお姉ちゃん。
私、『学校』でがんばってみるよ。
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