後編
「うらめしや……」
「きゃあっ!」
いつものように、通りかかったお客様の一人が怯えてくれました。今回はカップルではなく、数人のグループのお客様です。
「おっ、凄いな!」
「まだ稼働してる部分もあるんだね。電源はどうなってるんだろ?」
驚かなかった者たちが、そんな言葉を交わしています。
彼らの『電源』という言葉で気づきましたが、そういえば、今日は照明が消えていました。元々お化け屋敷なので薄暗いのですが、もう『薄暗い』を通り越して、完全に真っ暗なのです。
彼らも懐中電灯みたいなものを手にしていました。私が使っていた『懐中電灯』とは違って、四角い形です。
そして照明の他にも、違和感がありました。『稼働』と言われて気づいたのですが、唐傘お化けが出てこないのです。作り物だから、怠けるという概念はないはずなのに……。
困惑した私は、少しでも事情を理解するために、彼らの話にさらに意識を向けました。
「でも、これで来た甲斐があったね! 何もなかったら、馬鹿みたいだもんね!」
「どうせ暇潰しだから、俺は何も期待してなかったけどな」
「とりあえず、面白いネタにはなるぞ。帰ったら早速、廃墟探索サイトの掲示板に書き込もうぜ!」
「『三年前に閉園した遊園地、打ち捨てられたお化け屋敷に本物の幽霊が!』みたいな感じだね!」
「おいおい、『本物の幽霊』は大袈裟だろう」
「ハハハ……!」
私一人を残して、彼らは笑いながら去っていきました。
幽霊の時間感覚は、人間だった頃とは異なるのでしょう。
今の方々が、なんと三年ぶりのお客様だったとは……。本当に驚きです!
もう稼働していないのであれば、私以外の脅かし役たち――作り物のお化けたち――は、二度と顔を出すこともないのでしょうか。
そう考えると、少し寂しくなります。でも、だからといって私には、ここを出て余所へ移ろう、という気力もありません。
だから『打ち捨てられたお化け屋敷』に居座る私は、それこそ本物のソロ幽霊。気づかぬうちに私は、きちんとソロデビューしていたのですね!
(「そろそろしたいソロデビュー」完)