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こちら異世界ウイルス堂  作者: 烏川 ハル


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第二十四話 ウイルスが増える意味

   

 マドック先生が、こちらをチラッと見ました。

 私と目が合った途端、ハッとしたような表情に変わります。

 どうやら私は、よほど慌てた顔になっていたのでしょう。

 でも、おかげでマドック先生も気づいたようです。いかに頓珍漢な説明をしていたのか、ということに。

「ああ、すまん。インフルエンザとか麻疹とか、こっちの世界の人々にはわからん話だったな。申し訳ない」

 と、軽く頭を下げてから。

「要するに、俺が言いたかったのは……。そうしたウイルスと比べれば、俺がここで使ってるのは、まだ良心的ってことだ。このウイルスの場合、免疫効果が続くのは三ヶ月程度だからな。まとめると……」

 まるで自分の失言を取り繕おうとしているかのように、マドック先生は、繰り返し総括しようとしていました。

「まず一日か二日で効果が出始める。一ヶ月くらいで効果が切れる。さらに二ヶ月の間は、同じポーションは使えない。そんなところだ」

 いかにも「言い切った」と言わんばかりに、フーッと息を吐くマドック先生です。

 しかし。

 今の発言にあった「一日か二日で効果が出始める」という点。私は、初めて聞いた気がしますよ?

 もしかしたらルビーさんの場合は、彼女に流される形で、説明しそびれただけかもしれませんが……。

 大丈夫なのでしょうか。この男性客に対しては、ウイルス・ポーションを売る時に、きちんと説明してあったのでしょうか。


 よくよく考えてみれば。

 使ってから効き目が出るまでのタイムラグ、その理屈も、何となくわかる気はします。

 冒険者のステータスに関わる遺伝子を、ウイルスで体内へ運び込む。その遺伝子から、ステータスを向上させるタンパク質が作られる……。

 基本的な仕組みとしてマドック先生が説明したのは、これだけでした。でも、その後の話で、ウイルス増殖についても語っていたのですよね。「しばらくするとウイルスの増殖は阻害」って。

 あの時は、私も流してしまいましたが……。

 わざわざ増殖の話をした以上、ウイルスが増えることには意味があるはず。それが何であるか、マドック先生に「回転が速い」と言われた頭で想像すると……。

 

 ウイルスの遺伝子へ「冒険者のステータスに関わる遺伝子」を組み込んでいる以上、ウイルスが増えれば、その遺伝子も一緒に増えるのですよね!

 つまり、体内で過剰発現するタンパク質というのは、ポーションの瓶に入っていたウイルスからの分だけではなく。

 それを元に体内で増殖したウイルスからの分もある。というより、組換えウイルスは、病人にとってのバイ菌みたいなものだから、体内で凄い勢いで増えるはず。この増殖したウイルスから作られる方が、圧倒的に大量のはず。だからこそ()()発現なのですね!

 この辺の理屈、マドック先生としては当たり前すぎて説明しそびれたのでしょうが……。運び屋さんとしてウイルスを使う以上、これが最も重要なポイントなのではないでしょうか。

 ある程度ウイルスが体内で増殖するまでは、冒険者のステータスに関わるタンパク質も、十分には増えていない。そういう仕組みであるならば。

 摂取してから効果が出始めるまで一日か二日かかるという話も、とても納得できるのでした。

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