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こちら異世界ウイルス堂  作者: 烏川 ハル


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第二十三話 そんなウイルス知りません!

   

「使用間隔……だと?」

 オウム返しに呟く男性客。

 怒りの表情の中に、困惑の色が混じりました。

「ああ、そうだ。俺が作ったポーションを売る時は、必ず説明してるはずだ。一つ、冷蔵庫のような、なるべく冷たい場所で保管。一つ、効果が続くのは、せいぜい一ヶ月程度。一つ、いったん使用したら、同じポーションは三ヶ月くらいは使っても無駄」

 これらの『使用上の注意』は、ルビーさんに売った時も説明していましたね。ルビーさんの場合、途中で話を遮って、彼女の方から口にしていましたが。

 でも少なくとも、今の三点とも、あの時の会話に出てきた注意事項でした。

「あんたの場合、この最後のやつだな。『効かなかった』というなら、前のを使ってから三ヶ月以内だったんじゃないかと思うんだが……。どうだ?」

 こう言われて男性客は、マドック先生の胸ぐらを掴んだまま、固まってしまいました。

 その状態で、弁解がましくブツブツ呟いています。

「いや、俺は……。『一ヶ月くらい』というのは覚えていたから、ちゃんと一ヶ月待ってから……」

「ああ、そりゃあダメだな。話をごっちゃにしてる。いいか、よく聞け。もう一回きちんと説明してやるぞ」

 マドック先生の口調が、少し厳しくなりました。


「一ヶ月でポーションの効果が効かなくなるのは、組換えウイルスの中の促進遺伝子――あんたの場合はスピードアップに関わる促進遺伝子――から作られたタンパク質が、消費されたり分解されたりして、自然に減っていくからだ」

 この話、私が聞くのは二度目です。先ほどルビーさんに接客した時と、ほぼ同じセリフです。

「これに対して、ウイルスそのものの方は、少し話が違う。促進遺伝子から発現したタンパク質とは違って、体内では異物だ。だから免疫の対象となってる。つまり数日か一週間もすると体内で抗体が作られて、ウイルスが排除され始める」

 マドック先生、ちょっと話すペースがアップしています。『立て板に水』のようにまくし立てています。

「これは教科書に書いてあった受け売りだが、俺の記憶が確かならば……。例えばインフルエンザならば、いったん作られた抗体による免疫の持続期間は数ヶ月。麻疹ワクチンならば、約十年。BCGやB型肝炎の場合は、十数年だったと思う」

 あわわわわ。

 私ですら知らない用語が、たくさん出てきてしまっています!

 話の流れから推測して、おそらく『例えば』以下は、全て()()()の世界のウイルスの名称なのでしょうが……。

 理解を助けるための例示が、かえって混乱の源になっています!

   

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