表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/29

プロローグ ようこそウイルス堂へ

   

「おはようございます!」

 朝の挨拶と共に、元気よく私は、お店の扉を開けました。

「ああ、お嬢ちゃん。おはよう。もう、そんな時間か……」

 私の言葉に応じたのは、ここの店主、マドック先生です。

 いつのように彼は、だらしなく着崩した茶色いチェック柄のシャツの上に、白衣を羽織っています。でも、白衣だからといって、別に特別な作業をしていたわけではありません。ただカウンターのところに座って、難しそうな本を読んでいました。

 マドック先生は、もちろん私より年上ですが、その差は十歳くらいです。その上、見た目よりも若く見られることが多いようです。それでも彼は、私のことを『お嬢ちゃん』と呼びます。

 私は従業員なので、どう店主から呼ばれようと文句は言えません。そもそも私自身、小柄で童顔なので『お嬢ちゃん』扱いにも慣れています。相手によっては「なんとなく嫌!」と思うこともありますが、マドック先生から言われても、なぜだか気になりません。むしろ心地よく感じる時さえあるくらいです。

 今日も、そんな日でした。

 だから私は、笑顔を向けます。

「はい、そろそろ開店です!」

「うむ。では……」

 マドック先生は、開店準備のために立ち上がりました。


 地方都市レナトゥス、その北地区にある庶民向けの繁華街。そこの大通りから東へ一本入った裏通りに、街の人々から『ウイルス堂』と呼ばれるお店があります。

 白い壁と赤い屋根が目印の、小さなお店。店主であるマドック先生と、先月から働き出した私の、二人きりのお店です。でも冒険者御用達の、特殊なポーションの専門店です。


 マドック先生と二人で、開店準備に取り掛かりながら。

「今日は天気が良いので、冒険者にとっても絶好の冒険日和みたいです。きっとポーションを買いに来るお客さんも、たくさんですよ」

「そうかもしれんな」

 私はマドック先生の意識を、店の外へ向けようとしました。

 マドック先生は、この店に閉じこもってばかり。たまには、お日様の光を浴びるべきです。少なくとも、青空に目を向けるべきです。

 私の気持ちが通じたのか、マドック先生は窓の方へ歩み寄ります。それどころか、窓からヒョイっと顔を出して、空を見上げました。

「ふむ。確かに、いい天気だ。こんなに晴れ渡った空は、一ヶ月ぶりくらいじゃないか?」

 何を大げさな。

 それはマドック先生が、今まで青空を見ようとしなかっただけでしょう。

 そう思いつつも言葉を飲み込んだ私に、マドック先生は、軽く微笑みます。

「一ヶ月ぶりと言えば……。お嬢ちゃんが初めて店に来たのも、ちょうど一ヶ月前だったな」

 そうです。

 一ヶ月前の今日。

 あの日、私は……。

   

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ