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不死スキルは弱い方です  作者: 上葵
▼隔離城下街
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別れの鐘のはずでした


「さあ、切り替えてアメントを見つけますよ」

 ただひたすらにわだかまりがある。

 何だかんだで何時もの事だと割りきるしかないのだ。モヤモヤしながら城下街を歩き回るが、人気も無ければ、アメントの姿も無かった。

 廃墟の町、という感じだ。

 静けさが耳にいたい。

 奥に進めば進むほど、町は荒れていた。民家に突っ込んだ馬車や崩れた廃屋などは随分と廃退的だが、町の中央に聳えるエダ城は荘厳であり、とても数百年前の建物とは思えなかった。

「結界の紋章により風雨や外敵から守られてきた証拠でしょう。城を囲む結界は街の物より分厚そうです。これは通常の紋章持ちぐらいでは突破できそうにありませんね」

 風が冷たい。吐き出す息は真っ白だが、すぐに夜空に染まって消えてしまう。

「それにしても住民の死体が無いのはおかしいですね。城下街は結界の紋章により、兵糧攻めの憂き目にあったと聞いていますが」

「残酷な話だな。罪もない住民が犠牲になったのかよ」

「それはそうなんですが……」

 しばらく散策してみたが状況に変化は訪れなかった。

 朽ちた建物や、錆びた金属、崩れた荷馬車に、手入れがされておらず石畳を持ち上げるほど生長した街路樹。

 夜の空気がよりいっそう冷たくなっていく。

 俺たちが真っ先に向かったのは、深淵の獣がわき出たと考えられるエダ城だ。だが、城に直接通じる城門は長い年月、開けられた痕跡はなく、別の出入り口があると考えられた。

 アメントはどこに連れ去られたのか。

 探し回ってへとへとになった俺とアンティールは、同時にため息をついた。

「少し、休みましょう」

 反対などしようはずもない。かれこれ小一時間散策に費やしている。

 その場の縁石に腰を下ろそうとしたら、「何してるんです?」とつっけんどんに言われた。

「なにって座って休もうぜ」

「外なんて嫌です。寒いし。ゆっくり寝っ転がって休めるところがいいです」

「……」

 言葉だけ抜け出すと、なんかちょっとエロいな。前世の彼女から、言ってほしかった台詞だ。

 なんて、ぼんやり考えていたら、「立ってください」と袖を引かれた。

 アンティールはスタスタと大股歩きで近くの民家の入り口に行き、勢いそのまま扉を蹴り上げた。

 蝶番ごとドアがぶっ飛び、奥の壁に激突する。

「おいおいやりすぎだろ」

「誰もいないからいいんですよ。寝室探してください。魔法で中の埃全部吹き飛ばすんで」

「だとしても他人が使ってたベッドは嫌だろ」

「私、そういうの大丈夫なタイプなんで」

 なら、どこで休もうが同じだろうが。

 いつもの強引な様子にため息をつきながら、室内に足を踏み入れる。

 思ったよりも清潔だ。埃もそれほど積もっていない。

 アンティールが持っていたランタンを近くのテーブルに置いた。その振動で、カタンと何かが音をたてた。

「ひっ」

「どうしたんですか?」

 机の向こう側に人影が見えた。


 光に照らされ影を濃くしたマネキン人形に見えた。

 思わず息を飲んで、じっと見てみる。薄く目を閉じた五十代ぐらい女性。肌は黄色く変色している。

「……」

 まちがいない。血は出ていないが、これは死体。正確にいうなら、ミイラ。腐敗し黄色になった死体が食卓の椅子にだらりと腰かけていた。

「なるほど。死体は室内にあったんですね。屋外の死体は全部風化したということでしょうか」

「死体見たのに悲鳴一つあげないんだな」

「見慣れました。蘭や美雪とおんなじです」

 それにしたって、悲鳴ぐらいあげろよ。

 アンティールはランタンを掲げて、まじまじと観察している。

「妙ですね。死後何十年も経過しているだろうに、腐敗が進んでいない」

「ミイラになったんだろ」

「少し違いますね。木乃伊(ミイラ)は乾燥地帯で起こりますが、この辺りは湿度高いですから」

「じゃあなんだよ」

死蝋(しろう)です。それでも疑問が残ります。地中や海中で隔離されていたわけでもないのに、こんなに綺麗に死蝋化するなんてありえることなんでしょうか?」

「死蝋ってなんだ?」

「死体の脂肪が変成してチーズみたいになることです。死蝋化した右手は『栄光(ハンド・オブ・)(グローリー)』と呼ばれ、いい魔術道具になるんですよ」

 なんか気分が悪くなってきた。

 楽しそうに死体を眺める彼女に背を向け、俺は奥の部屋を確認することにした。


 室内を探索し、危険がないのを確認してから、俺とアンティールは二階のベッドに腰を下ろした。布は湿気て、寝心地は悪そうだったが、贅沢は言ってられない。

 いつもならもう寝てる時間だ。眠気に襲われ俺が大きくアクビをした瞬間、

 リンゴーン

 と、鐘の音が響き渡った。



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