リセットリピート
斬首による死ははじめてだった。首切りによって、俺の意識がどうなるかはわからない。蹴り上げられたサッカーボールのように滞空していた生首はすぐに消滅し、地面に残された体を起点として再生したからだ。
自身の血が地面に赤い水溜まりを作り出していた。
脳は正常に状況の分析を始める。
そうだ、こいつ、二刀持ってたんだ。
アーサーエリスが握る二振りのデカい鉈を、横たわりながら観察する。
片手で俺を抑えている間に銃弾を防ぐなんて容易いことなのだろう。先ほどの光景を思い起こす。
だんだんとわかってきたぞ、こいつの行動パターン。
アンティールと二人で行動していたとき、亡霊は同じ行動を繰り返す、と教わった。
遠く離れている時は跳躍からの突き、接近しているときは袈裟斬りか面を狙ってくる。
プログラムされているようだ。普通の人なら見極めることなんて出来ないだろう。だが、俺なら、
ゆっくりと冷静になるように自らに言い聞かせ、上体を起こす。
死んでも生き返る、俺なら!
「いいですか、ヒラサカさん。観察というのは……」アンティールの声が脳内に甦る。「見るんじゃあなくて観ることだ、聞くんじゃあなくて聴くことだ。じゃないとこれから死ぬことになるぜ、ヒラサカさん」どうせまたなんかの漫画の引用なんだろうけど、妙にしっくり来る表現だった。
事も無げに立ち上がる。奇跡の復活を遂げた俺を正面から見据えても、アーサーエリスの態度には何も変化は見られなかった。
ゴツい大男だ。籠手や足甲を装備しているが、顔は麻のズタ袋を被っているため窺いしれない。手に持った二振りの大鉈はまるで新品のように薄い月明かりを浴びて光っていた。
「よぉ。俺は不死だ。いくら殺されても死なないぜ?」
ちょっと挑発がてら声をかけて見たが、変化は見られなかった。
やはり、と得心がいって、一歩、慎重に歩みを進めると、アーサーエリスはその場で大きく跳躍した。
予想通りだ 。
後ずさりする。
心臓目掛けて一撃を放たれたが、予想していた俺は、いち早く地面を転がることで避けることに成功した。
「ミリアさん、指示したタイミングで撃ってください!」
地面に落ちていたものを拾い、叫ぶように声をかける。
「わかったわ!」
中距離の距離なら、こいつは……、
予想通りの袈裟斬りが来たので、後ろ飛びをし、紙一重でかわす。次いで右手鉈の振り下ろし。バックステップで避ける。
「よし」
ここだ!
右手を伸ばし、狙い済ました一撃をずだ袋の右目に、突き出す。が、予想通り、右手の鉈で弾かれてしまう。
「ミリアさん!」
「銀の牙っ!」
え、なにいまの。もしかして必殺技みたいなかんじで、叫んだの?
俺のいろんな感情をかき消すように銃声を響かせ、薬莢とともに銃弾が飛び出す。
左で持った鉈で当たり前のように防がれた。二撃まではそのように防がれる。そう、当たり前。
当たり前のように人間には二本しか腕が無い。それは死んで怨霊になってもかわらない。ミリアさんは、尚も数発撃っては位置を変えてを繰り返しているが、アーサーエリスに完全に攻撃が見切られて、すべて防がれていた。弾かれた弾丸が土をえぐり、銃創を作り出していた。
俺の一刀とミリアさんの銃撃を防ぐのに、アーサーエリスは文字通り手一杯だ。
だから俺は三本目の刃を用意したのだ。
地面を転がったときに、手にいれた刀。第三の武器。先ほど俺たちを襲った黒い影が持っていたものだ。
「ちぇすとぉ!」
叫んで、勢いのまま、振り下ろす。
違和感は一切なかった。まるで自分の腕の延長線のように自然な動作で扱えた。
二の太刀要らずとはいかなかったが、予想以上の一撃が、アーサーエリスの脳天に叩き込まれた。
「いまだぁ!」
畳み掛けるように、ミリアが発砲する。
止めは俺の攻撃だった。こいつが、大鉈を二本使えるなら、俺だって刀を二本使う。そうだった。俺には二刀流のスキルが宿っているのだから。




