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不死スキルは弱い方です  作者: 上葵
▼シジョウ死刑場
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深き闇のウィッチ


 雨が過ぎる頃には、アンティールはすっかりいつもの調子で、テントでゴロゴロしながら、旅の労をねぎらいあった。


 翌日。憂鬱を洗い流した雨があがり、新しい朝日に伸びをして、「今日も一日がんばるぞい!」と気合いをいれたら「はやく朝御飯作ってください」とアンティールに命令された。


 俺たち『髑髏の一団』が『虚ろの大穴』の調査を行い、帰還したというニュースは、いつの間にか『ドゥメール』中に広がり、話を聞きたいという冒険者がテントをひっきりなしに訪れた。

 固有名詞の多さに嫌気がさした俺は、来客の相手をアンティールに任せて、教会のおばばに弟のデュランダルが存命だということを報せに行くことにした。

 それが彼との約束の一つだったからだ。

 穴の底の出来事を教えてあげたら、おばばがお礼だと未解放スキルを無料で教えてくれた。

 いくつか気になる文字が踊ったが、一際俺の興味をひいたのは、

 クラス1のイケメン、ドクモの勅使河原甚太郎の固有スキル『魅了』だった。効果は単純、異性をメロメロにする。

 聞いた瞬間、「これだっ!」と思った。これさえあればアンティールはもちろん、異世界でハーレムを築くことも夢じゃない。

 よくあるチート無双ものの主人公がモテていたのはこのスキルのお陰だったのか。

 解放ポイント、50000。かなりの高ポイントスキルだが、デュランダルとの契約で日本への『帰還』が許されない俺にとっては喉から手が出るほど所有したいスキルだった。

 かつて俺たちをこちらの世界に招いた『放浪者のヨイナ』の性別は女だからだ。


 『帰還スキル』解放の対価として俺が結んだ契約は『ヨイナ』を彼の前に連れ行く、というものだった。

 魔術探求の一貫としてどうしても聞きたいことがあるらしい。契約を結んだせいか、『帰還』のスキルで異世界転移することができなくなってしまった。まあ、あのときはああするしか無かったし、後悔はないが、我ながら惜しいことをしたな、と改めてがっくりと肩を落としながらテントに戻ると、アンティールが一人の女性と向かい合って座っていた。

「ああ、ヒラサカさん、良いところに」

 アンティールは俺に気づくと手招きをして、横に座るように促した。荷物を下ろして、それに従う。


「こちら、ミリア・ベッセアートさん。通称『醜女(しこめ)のミリア』さんです」

「お前……」

 なんちゅうあだ名を、と睨み付けてやると、正面に座っていた女性がかばうように手をふった。

「皆から呼ばれている二つ名よ。私の姿を見ればわかるでしょ?」

 全身包帯を巻いていた。まるでミイラのコスプレだ。目出し帽のようになった包帯の隙間から覗く緑色の瞳が綺麗だった。

「あんたがヒラサカね。アンティールから話は聞いてるわ。あなたが協力してくれれば私の願いは叶う」

「え、なんですか」

「呪いを解きたいの。この醜い姿から解放されたいのよ」

「あ、はい。好きな言葉は情熱です」

「なにを言っているのかしら」

 残念ながらこちらの世界に美容整形クリニックはない。

 アンティールが呆れたように肩をすくめた。

「呪いでシシオマコトみたいにされたんで、惚れ薬を作ろうと思ってるところなんですよ」

「いやまてよ、全然話が見えないぞ」

「同じ話をするのは無駄だから嫌いなんですけど……、まあ、理解力の乏しい空っぽの脳ミソじゃ夢詰め込むだけでキャパオーバーだから仕方ないか。いいですか。ミリアさんは容姿が醜女になってしまう呪いにかかっているので、手っ取り早く惚れ薬をつくって将来現れるであろう伴侶に飲ませようって算段です」

 はしょりすぎた説明を引き継ぐようにミリアさんが口を開いた。

「家系の呪いでね。とてもじゃないけど人に見せられる姿じゃないの。だからこうして包帯を巻いているというわけ」

「なかなか大変ですね……」

「だけど、呪いを解く手段があるのよ。それは愛」

 頭ファンタジーかよ。

「真実の愛で私の呪いは解ける。だから私は『虚ろの大穴』を探索できるぐらい有能なギルド、『髑髏の一団』に正式に依頼を持ってきたのよ」

 惚れ薬で得られた愛が真実のものかはさておき、なんだかんだで誉められて悪い気はしないが。

 頬が綻んでいたら脇腹を肘でつつかれた。

「重要なのは過去ではなくこれからです」

 アンティールはたまに良いことを言う。

「で、お代はいかほどいただけるんで?」

 人差し指と親指をくっつけて、手のひらを上に向けている。いわゆるお金を表すジェスチャーだが、たぶんこっちの人には伝わらないと思う。

「実家からの援助金はこれぐらいしかなくて……」

 ミリアさんが提示した金額は貧乏暮らしの俺たちの目ん玉がひんむくほどのものだった。

「いいですね。やりましょう」

 髑髏の一団のやるべきクエストはそれ相応のものじゃなきゃいけないと豪語していたアンティールでさえ、上機嫌に絆されるほどの金額だった。

「あれ、でも、クエスト所通さないてそういう依頼って受注していいの?」

「勘のいいガキは嫌いです」

 ふと感じた疑問を口にしたら、ものすごい形相でアンティールに睨まれた。

「言ってはいけないことがあるんですよ、ヒラサカさん。『闇クエスト』は、依頼人と受注者がお互いに暗黙のルールに従うことが前提です 」

「闇クエスト……」

 互助会に登録されている弱小ギルドはクエストの斡旋を無料で受けられる代わりに、達成費用の二割をクエスト所に支払わなくてはならない。それが互助会の運用資金だからだ。

 だが直接クエストを受注する場合、マージンは取られないし、依頼人は信用できないギルドにお宝をくすねられることも無くなるので、いいことづくめに思えるが、互助会が無料の炊き出しなどが行えなくなるので、業界的にあまりよくないこと、とされている。

 炊き出しに助けられた身分としては心苦しいが、俺たちだってお金はほしいので仕方ないのだ。

「闇クエはどこのギルドだってやってるんでいまさら気にやむことは無いですよ。業界的にオフホワイトな活動ってだけで、明確に禁止されているわけじゃないですからね」

 ぐだぐだと自らに言い聞かせるような長い言い訳をアンティールがするので、俺はなにも知らなかったふりして、クエストに臨むことにした。



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