千死万紅
視界が真っ赤に染まり、自身が焦げる音を聞いた。服が、髪が、皮膚が、炎に焼かれる。
油断はしていなかった。けど、こんなのは想定外だ。
熱い!
強烈の熱さに意識が飛びそうになる。
燃やし尽くされ全身が消し炭のように真っ黒になっていく。
痛み止の魔法がかけられていないので余りにも辛い。筆舌にし難い痛みと恐怖が俺を絶望に突き落としていく。呼吸ができない。
脆くなった両足が崩れ、俺はその場に崩れ落ちた。喉が焼かれ、声も出ない。あまりの苦しみに、薄れ行く意識の片隅で、早く死にたいと願った。
ああ、アンティールの魔法で久しく忘れていたが、これが死ぬということだ。
全身が熱いのに足元からゾッとするぐらい冷たい『死』が絡まりながら登ってくる。
時間にして数秒もたっていないだろう。焦がれた死が俺の肩をつかんでからめとる。霧散する意識と共に俺は安堵し、世界は一時、暗転した。
すぐに目が覚めた。炎をまとった衣服を脱ぎ、火傷を大急ぎで回避する。
蘇生した。いつものことだ。『不死の紋章』の効果により健康な状態に戻った俺は、地面に落としていたカーヴァンクルを拾い上げ、炎を吐き終わった竜に向かって、再び切りかかった。口の端から煙が出ている。チャンスだ。ここしかない。ここしか、俺が前に進めるタイミングはない。
次の攻撃に移るまでタイムラグが、
「がうふ!」
食べられた。ばっくりと。下腹部にキバがガッツリと食い込み、
「がっ……」
鋭い痛みが全身を走り抜ける。あまりの痛みに悲鳴をあげたくなったが、込み上げた血液が喉を塞ぎ、詰まった下水道みたいな不快音をたてるだけだった。
「っあ」
腕を伸ばして逃れようともがくがうまくいかない。崩れ竜は一度高く俺の体を上空に投げ、投げたマシュマロを口でキャッチするような動作で、パクリと俺は食べられた。悪臭立ち込める崩れ竜の口内で上半身だけになり、短く終わりを悟った。
再びの暗転。




