とりあえずセックスしよう
冷たい。
朝、起きると、オレンジ色の太陽が、冷たい。
あったかさを与えてくれる太陽が、冷たい。
いつからだろう、
いつからだったのだろう、
こんな風に思うのは、こんな風に目覚めるのは。
多分あの時、
いや、それよりももっと前かもしれない。
分からないけど、いつでもいい。
そんなことはどうでもいい。
太陽があったかいものだった記憶はある、
から大丈夫。
これがあるから。
物心ついたときから、
頬には父の手形がいつもあった、熱い熱い手形があった。
腹には父の拳がいつもあった、大きい大きい拳があった。
横には泣いている母があった、小さく丸まった母があった。
これがあれば大丈夫。
そんな家で育った。立派に育った。
母の泣き喚く声が耳に残り、女性が嫌いになった。
煩く、五月蠅く、キンキン頭に響くそれは私をその場から離さなかった。
キンキン、キンキン響いて割れそうになる。
すると父が頬をひっぱたく、
頬が痛くて頭が痛いことなんか忘れてしまう。
母のせいで、母のせいで頭が痛くなる、
だから女性が嫌い。
母は女性だから。
父も嫌い。
すぐに私や母をひっぱたく、引きずり回す、
私たちが泣く声に、怯える顔にストレスを擦り付ける。
じゃんけんで言うとチョキ以外の手を使って、
私たちを殺そうとしてくる。
嫌われるとダメだ。嫌われたくない。
いい顔をしないと。機嫌を損ねないようにしないと。
母にストレスを感じる。
一々言い返してしまう母、
私にあたるはずだった父の裁きを代わりに受ける母、
余計激しくなる、長くなる。母にストレスを感じる。
感じざるをえなくなる。
夜、長い長い薄暗い冷たい廊下を父にバレないように歩いて、トイレに行く。
バレたら、また始まってしまう。
朝、父よりも後に起きる。
もし、万が一、父より早く起きてしまったら、
息を殺して、寝たふりをする。死んでいる。
そんなことが生まれてから10数年。続いた。
高校生、父が死んだ、
嬉しくも悲しくもなかった。
ただただ気持ち悪かった、母がまた、泣いて。
父の友人も、祖父母までも泣いて、
ただただ気持ち悪かった。
高校生、母が消えた、腹が立った。
机に通帳だけが遺されていた。
腹が立った。悟った。分かった。
その日から私は、
私は、
「ゴムありで2万ね。」
私にはもうこれしかなかった。
彼には私の不貞がバレ、
腹や顔を何度も何度も、
「違う。違うの。これがないと私は、私は、、。」
届かなかった。理解されなかった。また。
心が満たされるのは彼だけだった。
私の心を埋めてくれるのは、彼と、
(死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい死にたい死にたい死にたい)
フラフラどこかを、恐らく地獄を彷徨っていた私を、
見たこともないおじ様が拾ってくれた。
セックスをした。
おじ様は目を見開き、
鼻からぬける気持ちの悪い吐息は有無を言わさず私の顔にかかった、
重い体で上から押さえ込んだ。
気持ちいいわけのないそれは私の日常で、
彼との非日常はもうない。
ああ、もう。
これしかない、私にはこれしかない。
愛が欲しい、愛が欲しい、
愛を求めて、お金を貰ってセックスをする。
心も体も満たされることのないセックスをする。
心も体も全く満たされない、
のは最初から分かっていて、なのにやめられない。
お金がないわけじゃない、セックスが好きなわけでもない。
贅沢をしたいわけでもない。
でもやめられない。
私にとって一番身近で、一番楽な愛がセックスだから。
私が満たされるまでやめられない。
やめないと、愛が欲しい、やめないと、愛が欲しい、
不安、不安、不安、不安、不安、
お金を貰ってセックスをする。
気持ちの悪いおじさんも変にイキった金髪大学生も、
爽やかなイケメン君も、体育会系のマッチョ君も、
違うの、違うの、全然違うの、
やだ、したくない。本当はしたくない。
でもどうしようもなく愛が欲しいの、
愛を知らないまま死ぬのは嫌なの。
私を愛して。
助けて。私を助けて。
傍から見たら、ただの不貞女。
誰も本当に私を愛してくれる人なんて、
人なんていない。
どうすればいいの?
今日もまた男の人からお金を貰う。
とりあえずセックスしよう。
幼少期親からわかりやすい愛をもらえなかった子供は
将来何らかの形で苦労することが、
しっかりと愛をもらった子供よりも多いです。
その一部に性依存もあります。
すべてが親のせいではありませんが親の影響を大いに受けています。
子供一人を育てるのにどれだけの労力を費やすか、
まだ子供のいない私にはわかりませんが、
自身に子供ができた時、たくさんの愛を感じさせるような親になりたいです。