第七話
王宮での生活開始です。
「リラ様、おはようございます。今日もいい天気ですよ」
「ぅん...」
メイがカーテンを開け、太陽の光を部屋の中にとりこんだ。メイは、私専属のメイド。王宮で生活するのを機に、私の専属になった。
「今日の朝食はメープルパンらしいですよ」
「そう...」
(絶対まだ朝早いわ...。もうちょっと寝てたい...)
そんな私の願いは虚しくも砕け散った。
「ほら、いつまで寝てるんですか!今日は朝食に遅れないようにと、ルーク様から言われてるんですよ!」
(メイに言うなら私に直接言えばいいじゃない)
そう心の中で思いつつも、渋々ベットからでた。
ベットからでると、思いのほかひんやりした。ぶるっと体が震えると、メイがカーディガンを掛けてくれた。
「今日は冷えますからね...。ココアも頼んでおきます。」
「そうね」
王宮で生活をするようになって、3日が経った。
服を着替えながら、部屋を見渡した。森の城に住んでいた頃の部屋の3倍ぐらいの広さ。大きなベットのすぐそばには、バルコニーにでることができる大きな窓がある。
(こんなに広くなくていいのに...)
部屋から出なくても、普通に生活できるような部屋だ。贅沢すぎて、まったく慣れることができない。
「今日は朝食のあと、政治学と魔法学の授業があります。午後からはドレスの仕立てがあります。」
「またドレスの仕立てをするの?」
(そんなにドレスを買う必要があるのかしら)
王宮で暮らし始めてまだ3日なのに、ドレスの仕立て屋はもう2度も来ている。今まであまりドレスを買っていなかった自覚はあったが、そんなに必要だと思えない。
「今までが買っていなさすぎただけですよ。普通のご令嬢はこんなものです。」
着替えを済ませ、ダイニングに向かうと、ルークが朝食を用意しているところだった。
「おはよう、ルーク」
「おはようございます」
席に着くと、すぐに温かいココアとメープルパンが運ばれてきた。ココアを口に含むと、甘さがちょうどよくて身体が中から温かくなった気がした。メープルパンを小さくちぎって、口に運ぶ。
(...この沈黙なんなのかしら...)
チラリと横を見ると、いつの間にかルークがいなくなっていた。
「え、ルーク?」
慌てて辺りを見渡すと、隣の部屋からルークが出てくるところだった。
「リラ様、どうかしましたか?」
「あ、いえ、なんでもないの」
慌てて前を向いて食事を再開すると、ルークがココアを足してくれた。
「王宮の生活には慣れましたか?」
ルークが私に聞いた。
「そんな訳ないでしょ。まだ3日よ?...それに、初めてなことだらけだもの。まだ王族全員の名前もうる覚えなの。」
王族だけでも、現国王の正妻、側室2人に、陛下の子供にあたるのが4人、陛下の孫にあたるのが私も含めて7人いるのだ。3日で覚えられるはずがない。はぁ、とため息をついた。
「それは...、早く覚えないといけませんね。今夜あたり復習しましょう。それから、今日の予定ですが、追加でレオ様と夕食を取ることになりました。」
(えっ、レオお兄様と夕食...)
「いきなりね。何か急ぎの用事でもあるのかしら」
「どうなんでしょうね。お誘いがあったので、断る理由もないかと思いまして」
(まぁそうなんだけど)
私は、ルークが了承したことに驚いていた。ルークはあまりレオお兄様のことが得意ではないと思っていた。
(でも一見変わったところはないし、具合が悪いわけではなさそうね)
ルークの体調が悪すぎて、苦手なレオお兄様の誘いも私に言わずに引き受けてしまったのかと思ったが、そうではなかったようだ。私はルークにココアのおかわりを頼んだ。