第六話
(これからどうなるのかしら...)
王宮のレオお兄様の書斎で、私はため息をついていた。斜め後ろにいるルークは、無表情で立っているが、いつもより雰囲気がかたい気がした。
「ねぇルーク、私の家どうなっちゃうのかしら...。まさか、本当に王宮に住むなんてことになるのかしら...」
ルークに聞くと、ルークは肩を竦めながら答えた。
「その可能性はあるでしょう。...私もリラ様の従者を辞めさせられるかもしれませんね。」
「えっ」
私は驚いてルークを見た。ルークは若干諦めたような顔をしていた。
「私はリラ様が一人であの城に住むのは大変だということで付きましたから。もしかしたら...」
ルークが続きを言おうとした時、扉がノックされ、開いた。
「リラ、またせてごめんね。陛下ももうすぐ来ると思うから。」
レオお兄様が入ってきた。
「いえ、大丈夫です。」
レオお兄様が向かい側に座ると、使用人が飲み物とお菓子を持ってきた。
(レオお兄様は何を考えているのかしら...)
レオお兄様を観察していると、いつもとまったく変わらなかった。変わっていることとすれば、服装が少し楽なものになっているというぐらいだった。それに対し、私は王宮に出向くため、いつもよりきちんとした服装をしていた。もちろん、髪はスカーフで隠している。
(もし王宮で住むことになったら、ずっと隠しておかないといけなくなるわね。そんなの嫌だわ)
少し警戒したようにレオお兄様を見ていると、レオお兄様が少し困ったように笑った。
「そんなに警戒しなくてもいいよ。...二人を引き裂いたりしないから。」
「え?」
(そんなに顔に出てたかしら...)
思わず頬に手をあてた。眉間に皺がよっているのが自分で分かる。
ガチャっと扉が開き、陛下が入ってきた。
「待たせてしまってすまない。遅くなった。」
「いえ...」
これからどうなるのだろうか。
もちろん、陛下の決定に背くことはできないが...、王宮に住むのは避けたい。
私が意を決して陛下をみると、そんなに固くならなくていい、と笑われた。
「さて、今後のことだが...。こないだ言った通り、次の国王にはレオを指名しようも思っている。それと同時に、リラの住まいを王宮に移したい。」
(やっぱり、本気なのね...)
ため息をつきたくなる気持ちをなんとか抑え、真っ直ぐに陛下を見た。
「陛下、無礼を承知で申し上げます。私は、今の住まいを移るつもりはありません。そもそも、私は王族ではありません。王宮に住む権利はないと思いますが...」
すると、陛下はルークを見た。
「ルーク、お前はどう思う?」
「陛下?」
(なんで、ルークに...)
ルークを見ると、表情を変えず答えた。
「私が口出し出来ることではありません。...しかし許されるのであれば、私はリラ様の意志を尊重したくございます。」
「それは、お前も同じ意見だと言うことか」
「はい」
私は、無意識のうちにほっとしていた。
ルークも同じ意見だと、はっきりと述べてくれたからだろう。
陛下は私達の意見を聞き終えた後、呆れるように笑った。
「やはり、お前達は仲がいいな。お前達なら、そう言うと思ったよ。最も、リラも今の住まいを気に入っているようだったしな。」
(え...?)
場の空気が一気に和やかなものになった。
どういうことか分からず陛下をみると、陛下が口を開いた。
「リラを王宮に住まわせたいというのは、ずっと昔から思っていたんだ。それこそ、リラが生まれているとわかった時からな。それで、レオに王位を譲る節目に、リラも王宮に...と思ったんだが、どうだ?」
(どうだ?って...。決定事項じゃないの...?)
戸惑って返事を出来ずにいると、ルークが後ろから話に入ってきた。
「どうだ、と申しますと?」
「どうしても嫌だというなら無理には移らなくていいけれど...。遅かれ早かれ、移ることにはなると思う」
レオお兄様が答えた。
(絶対移らないといけない訳じゃないのね...)
でも、遅かれ早かれ移ることになるって、どういうことなのだろう。王宮には、王族しか住むことができない。私は王族ではないため、住む権利がないはず。
そう思っていると、私の疑問を察したレオお兄様が言った。
「リラには、王族に加わってもらうんだ。」
「え...?」
加わってもらう、とは私が王族になるということ。
「で、でも、私は...」
(純血ではないし、それに、この髪の毛があるし...)
私は、王族になれない。なるべきではない。
これは、小さい頃からずっと教えられたことだ。白は神の色。人間が日常的に身につけていい色ではない。私の髪色が白ということで、王族として認められなかったぐらい、神に対する不敬に当たる。
(それなのに...)
「リラ、君の髪の色は関係ない。たとえ、白であっても君は王族の血を引いてるんだ。王族になる権利がある。そもそも、髪の色が白という理由で王族になることを認めないことがおかしいんだ」
(え?)
当たり前のことだと思っていた。自分のこの髪色はよくないものだと思っていた。だが、もしかしたら、私にもチャンスがあるのだろうか。幸せになる、チャンスが。