第四話
一人で食後のお茶を飲んでいると、扉を開けてルークが入ってきた。
「もうすぐレオ様がいらっしゃるみたいです」
「分かったわ。」
それから少しすると、またルークが部屋に入ってきた。
「リラ様、レオ様がいらっしゃいました。」
「そう」
ルークに促され、玄関に出た。
そこには、従者を一人だけ連れてきたレオお兄様が立っていた。
「やぁリラ。久しぶりだね」
「えぇ。お久しぶりです。」
レオお兄様は、王位継承権第三位で私とはいとこに当たる。私の5つ上で、ルークと同い年だから、もうそろそろ婚約者を選ぶ頃じゃないかしら。
「ごめんね。成人の儀のときに王宮にいなくて。」
「いいえ、お仕事だったんでしょう?しょうがないですわ。」
客間にレオお兄様を案内して、向かい合うようにソファに座った。飲み物を頼んで、従者の方に座るよう言った。
「いえ、私のことはお気になさらず。」
「でも、ここまで長かったでしょう?おすわりになって、フェルド様。」
レオお兄様の従者、フェルド・リンカーン。リンカーン家の長男で、レオお兄様が一番信頼している従者。
「ですが...」
「リラがここまで言ってるんだから、座ればいいだろう。何遠慮してるんだ。」
「そうですわ。ほら、お茶もきましたし。」
「...では、お言葉に甘えて」
(やっと座った...)
座ってくれたことにホッとしていると、ルークが部屋に入ってきた。
「レオ様、わざわざ足を運んでいただき、ありがとうごさいます。レオ様もお暇ではないでしょう。今日のご用件は?」
ルークが単刀直入に聞いてくれた。
私もそのほうがいいだろうと思い、レオお兄様の方を見た。レオお兄様は少し苦笑いして、一通の手紙を出した。
「本当は転移魔法を使って届けても良かったんだけど、リラの顔が見たかったから直接持ってきたんだ」
手紙を受け取り、中を開けると招待状が入っていた。次期国王を決める話し合いをするため、王族は全員出席するように、とのことだった。
「でも、私は王族じゃありませんわ。この会議に出席する権利はありません。」
私がそう言うと、レオお兄様は心配いらないと首を振った。
「これは陛下から直々の声掛けだから、大丈夫。何も言われないよ。まぁ言ったとしても、それは陛下に対する不敬罪に当たるからね。」
「でも...」
私は王族として認められていない。それは、しょうがないことだ。今更、王族として生活していきたいとも、王宮で暮らしたいとも思わない。
そんな私が、大事な会議に参加していいものだろうか。不安に思い、ルークを見た。
「陛下からのお誘いでしたら、参加する方がいいと思います。陛下も、何か考えがあるのでしょうから。」
「そうね...。ルークがそう言うなら、そうしたほうがいいのかもしれないわね...」
ルークからそう言われ、私は決心した。
「レオお兄様、陛下には出席すると、お伝えください。」
「あぁ、分かった。正装で来るようにね。」
正装、ということは髪をスカーフで隠せないのだ。それを思うと、少し気が重くなった。
「僕にはまだ見せてくれないんだね」
「え?」
レオお兄様の視線が、私の髪に注がれている。居心地の悪さを感じながらも、私は苦笑した。
「あまり、いい気持ちのするものじゃありませんわ。」
(きっと、見ないで済むなら、見ない方がいい)
「...レオ様、そろそろ...」
「あぁ、分かってる。...じゃあリラ、また今度」
「えぇ。また」
レオお兄様を玄関まで送り届けると、一気に身体の力が抜けた。
(また正装をしないといけないわ。準備に手間がかかるわね...)
そう思うと、行くと言ってしまったことを少し後悔した。