第二十二話
「じゃあ、今日はここまでにしようか」
ぱたんと本を閉じ、筆を置いた。
こないだの夕食会があってから、今日が初めての授業。聞きたいことはたくさんあるが、時間は限られている。
「あの、ロイド様...」
(もう直接きいても大丈夫よね...)
「こないだの夕食会のことなんですけど」
「ああ、ごめんね、言ってなくて」
ロイド様がゆっくりと椅子にすわる。ティーカップを片手に微笑む姿は、洗練されていた。
「改めて自己紹介をするね。僕の名前はロイド・ウォーカー。歳は25歳。王立魔学研究所の教授をやっています」
(その若さで研究所の教授なんて...。私でも、それがすごいことだってことはわかる)
王立の研究所の教授とは、普通は上級貴族の子息がなることが多い。もちろん、いくら家柄が良くても、優秀な者しか教授にはなれないが。
「それでリラ様。試験にむけて、これからしなきゃいけないことがたくさんあるんだ」
ロイド様はそう言うと、一枚の紙を私の前に置いた。そこには、練習メニューが書かれていた。
(こ、これは...)
「人が持っていると思われる魔力の量の大体は、本来の魔力の70パーセントほどだと言われているんだよ。100パーセント出せるようになるためには、やっぱり練習が必要なんだ」
(まさか、このメニュー...毎日するわけじゃないわよね...)
恐る恐るロイド様をみると、ロイド様はにっこりと笑った。
「明日から練習頑張ろうね」
初めてロイド様を怖いと思った瞬間だった。
次の日。
「まずは魔力を測定しようか」
ロイド様が指を指した先には、魔力を測定する機器が置いてあった。
魔力を測定する方法はふたつある。1つ目は資格を持っている人が魔力を測定する方法。これは測定する人が持っている魔力の量以上はわからないし、それぞれの感覚にもよるから、大体の量しかわからない。
2つ目は今回みたいに機器を使用する方法。機器の先端に向かって手をかざし、狙いを定めて魔力を放射する。先端が受けた魔力を測定して数値化し、数字が浮かんでくる。
この方法は正確に魔力の量と質が測れるが、測定する人の魔力の当て具合によって数値が変化する。そのため、この方法で実力をだすには、まずは魔力をコントロールする技術が必要になる。
(私、生まれてからまともに魔法つかったことないんだけど...)
写真を撮ったり映したりするのも魔力を使っているが、あれは基本中の基本と言われる魔法。それ以外で魔法は使っていない。
(今までは全部ルークがやってくれてたし、私がやる必要なかったのよね)
「じゃあ測定するから、そこのラインに立って」
ロイド様から指示された場所に立ち、手を掲げる。
「あそこの先端に魔力を集中させるイメージをして。できたら先端を壊す勢いで撃ち抜いて。」
頭の中でイメージをする。
(う〜ん...難しいわね。こうやって、こうして...)
軽くイメージしたそのとき。
目の前がパッと光って、一瞬遅れてパンッ!という音がした。自分でも何が起こったのかわからなかったが、目の前の機器は先端がなくなっている。
「...すごい...」
ロイド様がぽつりと呟いた。
(え...?)
手のひらがじんじんと痛い。みると赤くなっていた。
「リラ様、今までに何が訓練のようなもの受けた?何か、魔力をあげるようなもの」
「いえ、まったく受けてないわ...」
ロイド様が考え込むように手を顎にあてる。顔は険しくなっていた。
(今、私が壊したのよね...)
私が生まれた時の魔力検査では、貴族としてのラインギリギリの数値だった。王族として証明する場合、魔力の量も判断基準に入れられる。まぁそれだけで王族と決めるのは危険なため、もちろん他の検査なども行うが。
(魔力は普通増えたりしない...)
だから魔力を引き出す訓練をするのだ。その人の限界値は生まれた時から決まっている。それから多少は増えることがあるが、それはその人の限界値に近づいているということ。魔力そのものが増えることは無い。
「今回は魔力の威力が上がりすぎてる。普通、訓練しても、ここまで生まれた時の検査と差があることはないんだけど...」
私は、自分の手を見つめた。
(どうなっているの...)
自分の体のことなのに、まったく意味がわからない。そのことに、少し不安になった。




