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第二十話

扉をあけると、なぜかそこにはヘンリー様が座っていた。

(え?なんでここにヘンリー様が居るの?)

ヘンリー様は来客用のソファに座り、お茶を飲んでいた。メイをみると、ごくごく普通にお茶とお菓子をだしてもてなしていた。

メイがこちらをみた。私に気づくと、お帰りなさいませ、と声を掛けた。

「ただいま。...お久しぶりです、ヘンリー様。私に何か用ですか?」

ヘンリー様の向かい側に座った。

ヘンリー様は急に部屋にきたことの謝罪、私が帰ってくるまで寛がせてもらったことを前置きして、話し始めた。

「試験の話は聞いたか?」

「えぇ。点数が合格点に達しなければ、王族から追放するそうですね」

ヘンリー様は、もうそこまで知っていたのか、と苦虫を噛み潰したような顔になった。

「そのテストを受けさせようとしているのは、アルマ叔母様なんだ。最近、アルマ叔母様の部屋に学者や上級貴族たちがよく出入りしている」

ヘンリー様がテーブルに手をかざすと、何枚かの写真が浮かび上がってきた。そこには、アルマ叔母様の部屋に入る学者や、上級貴族が出入りしている様子が写されていた。

(アルマ叔母様...ね)

確かにアルマ叔母様は、兄弟の中でひとりだけ子供がいない。私が王族になることで、一番困るのはアルマ叔母様だろう。アルマ叔母様の夫は、上級貴族の次男...だったような気がするが、気弱で滅多に部屋からでてこない。

(ま、そういう人だから婿養子になったんだろうけど。でも、一番謎なのは...)

ヘンリー様が私にそのことをわざわざ伝えに来た、ということだ。私に試験の状況を教えても、ヘンリー様には何の得もない。

「あの...どうして、この情報を私に?」

ヘンリー様に尋ねると、ヘンリー様は少し嫌な顔をした。

「このテストに、俺の母さんも関わっている。アルマ叔母様に学者の伝手はあまりないからな」

ヘンリー様は自嘲気味に笑った。

「だが、私は母さんや父さんみたいにはならない」

ヘンリー様は私の目をまっすぐにみた。

「父さんや母さんは、自分たちの利益のことしか考えていない。今、この国のためになるのは、リラ様を追放することではなく、レオ次期陛下のサポートをすることだろう?」

それに、と息を吐いてヘンリー様は続けた。

「カテリーナには、そんな風に育って欲しくない。父さんと母さんが頼れない今、俺がしっかりしないと」

(妹さんのこと、大切にしてるんだ)

カテリーナ様はヘンリー様の実の妹。私も、まだ一度もあったことはない。

「そうですか...。情報ありがとうございます。カテリーナ様のこと、大切に思っていらっしゃるんですね」

「カテリーナには、まっすぐに生きて欲しいんだ」

ヘンリー様が少し微笑んだ。

私はメイを呼び、お菓子を持ってきて欲しいと頼んだ。メイが持ってきたマカロンを受け取り、ヘンリー様に渡した。

「これを、カテリーナ様に。ここのマカロン、美味しいんです」

「...いいのか?」

「はい、もらってください。あと、私のことは敬称を付けなくていいですよ。...同い年、ですよね?」

ずっと気になっていたことを確認すると、あぁ、と頷いた。

「では、リラでいいです。ヘンリー様」

「じゃあ、俺のこともヘンリーでいいし、敬語も使わなくていい。まあ、母さんや父さんの前では今までどおりの方がいいかもしれないが」

「そうですね」

扉を開けると、ヘンリーはこちらを振り返った。

「ありがとう、リラ。カテリーナに渡しておく」

「ええ。お願い」

それじゃあ、と歩き出したヘンリー様を角を曲がるまで見送った。

「メイ、お茶をお願い」

ドカッとソファに座ると、メイが持ってきたお茶を一気に飲み干した。

(これからどうしようかしら...)

ヘンリー様から得られた情報は、私一人では有効に使い切れない。ひとまず、ルークに相談した方がいいだろう。

(そういえば、今日はルークを見てないわね)

今の時間は午後6時。夕食は7時からなのに、ルーグがまだいないのはおかしい。

「ねえ、ルークは?まだ戻ってないの?」

メイにたずねると、たしかに、と頷いた。

「私も、今日はルーク様を見かけてないんです。夕食には戻ってくると思いますけど...」

そう、と返事をした。

最近、ルークが忙しすぎる気がするのだ。前より仕事量は少ないはずなのに、今は前より忙しそうにしている。

(別に、ルークが何をしようと勝手だけど...)

今までに感じたことの無いもやもやが、私の胸の中で暴れていた。


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