第十九話
「ん...?」
「あ、起きましたか、リラ様?」
目を開けると、いきなりメイが視界に入ってきた。
(まぶしっ)
窓から入ってきた日光が私の目を直撃した。思わず目を閉じると、メイの声が聴こえた。
「おはようございます、リラ様。まぁ、もうおはようございますという時間でもないんですけど」
ゆっくり目を開けて窓を見ると、太陽がちょうど上の方にあった。
「今、何時...?」
「ちょうど正午になったばっかりです」
(正午...しょうご?正午!?)
ガバッと勢いよく起き上がると、メイがドレスをクローゼットにしまっているところだった。
「じゅ、授業は!?やだ私、こんな時間まで寝てたの...」
慌ててベットから降りると、メイがワンピースを持ってこちらにきた。
「今日は授業がない日ですよ。はい、これ今日のワンピースです。早く着替えて朝食兼昼食を取りましょう」
「そうだったのね。よかった...」
ほっとしつつ、こんな時間まで寝ていてはいけない。急いでワンピースに着替え、ドレッサーの前に座った。
メイがすばやく髪をまとめていく。
「今日は一日お休みですが、夕食は王族の方々が全員揃ってとるので、リラ様も出席なさるようにとのことです」
「王族が全員揃うって...」
(どういうこと?今日は別に特別な日ではないはずよね)
真っ白な髪がメイの手によって綺麗に編み込みにされていくのを見ながら、私は考えていた。
(そういえば、今日はルークを見てないわね)
いつもならこの時間、1日の予定を伝えるのはルークだ。
「ねえ、ルークは?」
「ルーク様なら、なんだか朝から忙しそうでしたよ。問題が起きたとか、そういう訳では無さそうですけど」
(なにかあったのかしら...)
問題がおきたわけではないのなら、ルークの個人的な用事だろう。ルークは、あまり自分のことを人に話すタイプではない。
(今日は授業が休みだから、いつもよりゆっくり過ごせるのよね)
ならば、夕食の時間まで図書館で本でも読んでいよう。王宮の図書館は国内でも最大級だ。
(この前行ったときは途中で寝ちゃったから、その続きをずっと読みたかったのよね)
メイに図書館に行くことを伝えると、ちょうど身支度が終わるタイミングだった。
「では夕食は7時からなので、5時には戻ってきてくださいね」
「わかったわ」
部屋をでると、廊下の窓からちょうど日が照っていた。外からは騎士団が訓練している声が聞こえた。
図書館につくと、すぐに小説のところへ向かった。
(よかった、こないだの本まだあった...)
図書館の中で本を読む時は、図書館の中にある中庭のベンチで読むと決めている。今日みたいに天気がいい日は、程よく風が入って気持ちいい。
ベンチに座って本を開くと、すぐに本を読み始めた。
文字を追っていた視界が暗くなった。
顔を上げると、そこにロイド様が立っていた。
「やぁ、リラ様」
「ロイド様。どうしてここへ?今日は授業はありませんよね」
ロイド様は蜂蜜色の髪を揺らしながら、にっこりと笑った。
「王宮の図書館は国内でも最大級だから、調べ物をしにね。リラ様は読書?」
「はい。久しぶりにゆっくりできるので」
ロイド様は私の隣に座った。
「ロイド様?調べ物はよかったんですか?」
「うん。もう終わったから」
ロイド様はうーんと背伸びして、ふぅーと息を吐いた。ほのかに甘い匂いがした気がした。
私はもう一度本に目を落とした。
肩にこつんと何かが当たって、目が覚めた。
太陽がちょうど目線と同じ高さにきていた。
(いつの間にか寝てしまったのね...。今何時かしら)
ふと、少し重くなった肩をみると、ロイド様が寝ていた。
(ロ、ロイド様?!...寝てる?)
ロイド様の顔を覗き込むと、気持ちよさそうに寝ていた。
「あの...ロイド様?」
声をかけるが、反応はない。
(どうすればいいの?)
ひとりでアタフタしていると、ロイド様が動いた。
「ん...。...あれ?」
「ロイド様、起きましたか?」
声をかけると、ロイド様はゆっくり起き上がった。
「僕寝てた?」
「はい、気持ちよさそうに。疲れていたんじゃないですか?」
よくみていなかったのでさっきは気づいていなかったが、私に話しかけたときも、うっすらとロイド様の目元にはクマができていた。
「ん...。ごめんね、リラ様の肩借りちゃった。時間は大丈夫?」
「え、あ、はい。私も寝てしまっていたので。私はもうそろそろ部屋に戻ろうかと思います」
「そっか。じゃあ、部屋まで送るよ」
私の部屋と王宮の出口は、図書館から真逆の方向にある。
(ロイド様は疲れているようだし、すぐに家に帰った方がいいんじゃないかしら)
「あの、私は大丈夫なので、お気遣い頂かなくていいですよ?ロイド様は家に帰って、ゆっくり休んでください」
私がそう伝えると、ロイド様はふふっと笑って首を振った。
「いいよ。肩まで借りちゃったし、一緒に図書館でるんだから、女の子をひとりで返すのも嫌だしね」
ほら、行こう。とロイド様から差し出された手を握って、立ち上がった。
(ロイド様、こういうところが紳士よね)
ロイド様は育ちがいいと思う。落ち着いた雰囲気があるし、私と一緒に歩くときは必ず歩調を合わせてくれる。段差や階段などの声掛けもスマートだ。
話しながら歩いていると、あっという間に私の部屋に着いた。
「送っていただいてありがとうございました」
「ううん、気にしないで。じゃあリラ様、またね」
ロイド様が角をまがり終えるまで見送ると、私は部屋の中に入った。