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第十一話

目が覚めた。しばらくぼうっとしていたけど、ガっと起き上がった。

(大変。私、夕食を食べたあとの記憶が無い...)

でも、私は自分の部屋にいた。衣服は昨日のままで、乱れもない。

(確か、レオお兄様と別れたあとだったから、メイに聞けばわかるわね...)

とりあえず、お風呂に入ることにした。化粧も落としておらず、衣服も昨日のまま。さすがに、このままメイがくるまで過ごすのは嫌だ。

元々、お風呂はいつでも入れるようになっているため、準備するものはそれ程多くなかった。

湯船に浸かると、全身の筋肉がほぐれていくような気がした。ゆっくり息を吐き出すと、昨日の記憶が整理されていった。

(私、レオお兄様が出ていったあとそのまま寝ちゃったのね)

申し訳ないことをした、と思った。恐らく、ここまでルークが運んでくれたんだろう。ルークの仕事を増やしてしまった。

色々と考え事をしている間に少しのぼせてしまった。湯船から上がりお風呂場をでて着替えると、窓の外には朝日が昇っていた。

(綺麗...)

バルコニーにでると、少しひんやりした空気が身体中に広がった。朝日を全身に浴びると自分の部屋のバルコニーなのに、神聖な場所にいるような気がした。そのまま朝日を眺めていると、いつの間にかメイが部屋の中に入ってきていた。

「リラ様...?あぁ、バルコニーにいたんですね。おはようございます。今日は早いですね」

「おはよう、メイ。昨日はごめんなさい。私、食事が終わってすぐに寝ちゃったのね」

メイがお茶とお菓子を用意してくれた。

ソファーに座って、メイが入れてくれたお茶を飲む。

「お疲れだったみたいですね。ルーク様が部屋まで運んでくださったので、大丈夫ですよ。あぁそれと、今日は夜会ですから授業はお休みだそうです。」

授業が休みということは、夜会までずっと準備に追われるということ。

(ずっと準備か...。きついわね)

私は13歳の社交界デビューの時しか夜会に出ていないため詳しいことは覚えていないが、夜会の準備が苦痛だったことだけは覚えている。

メイと話をしながらお茶を飲んでいると、いつの間にか朝食の時間になっていた。

「今日はあまり食べ物は食べれないと思っていてください。」

「え...」

(今日の楽しみは食事ぐらいだと思っていたのに...!食事まで出来ないなら、一体何をすればいいの...)

私が絶望的に思っていることも知らず、夜会の準備が始まった。それは、今まで体験したこともないような騒ぎだった。

(他のご令嬢は夜会の度にこんな大騒ぎしてるの?疲れるわ...)

いろんな人に髪をしてもらったり、メイクしてもらったり。身体もメイによって隅々まで洗われ、気づけば夜会まであまり時間も無くなってきた。

「では、ドレスを着ましょう。ほら、昨日買ったドレスです!やっぱりいいですねぇ、水色。リラ様の髪色と相まってすごく幻想的です!」

今日着るのは、水色のスレンダーラインのドレス。ところどころにパールが散りばめられていて、レースの髪飾りもお揃いでついている。水色やレースときくと子供っぽい感じになりがちだが、スレンダーラインのため大人っぽくもなっている。

「そうかしら。この髪、気味悪がられなければいいけど。」

これからは髪を隠さない。貴族の中には不快に感じる人もいるだろう。

(...おじい様やレオお兄様には、迷惑かけたくないわ)

なるべく目立たないように端にいよう、そう心に決めると、コンコンと扉がノックされた。返事をすると、ルークが入ってきた。

(そういえば、今日はルークと会ってなかったわね)

昨日、私が寝てしまってからルークとは会っていなかった。ルークは部屋に入ってくると、メイに今の状況を確認し、これからの予定について話し始めた。

「あと一時間ほどしたら、会場へ移動を始めます。今回はリラ様のお披露目の意味も含んでいるので、リラ様は名前が呼ばれてからの入場になります。今回は私がエスコートしますので。」

「そうなの。ルークにエスコートされるのは、13歳のデビュー以来ね。」

私がくすっと笑うと、ルークもつられたように少し笑った。まぁそれ以来夜会には参加していないのだから当たり前なのだけど。

「それと、昨日はごめんなさい。私、夕食を食べてそのまま寝ちゃったのね。ルークが運んでくれたんでしょう?ありがとう。」

「あぁ、いえ...」

ルークが気まずそうに目を逸らした。

(私、寝ている間に何かしちゃったのかしら...)

何かあったのか気になったが、私が何かやらかしていたら恥ずかしいので、聞かないことにする。

着替えも済ませ、あとは夜会を待つだけになった。ルークは準備があるということで一度部屋から出ていった。

「ドキドキですねっ!私、リラ様が社交界デビューするときはお傍にいなかったので、今回が初めてなんです。」

「そうだったわね。私が13歳のとき、メイはまだ10歳だったもの。」

メイとは、ルークの次に長く一緒にいる。

メイはルークとは違い、元々は平民の女の子だった。メイが森に迷い込んでいたところをルークが保護し、城に連れてきた。歳が近く、同性だった私たちはすぐに仲良くなった。仲良くなるにつれ、私はメイの家のことを聞いた。

『じゃあ、メイはおかあさんから森の薬草をとってこいっていわれたの?』

自分で言うのもあれだが、私の住んでいる森は、大人でも寄り付かず、魔物がすんでいると言われている森だ。普通は、自分の子供には近づかないように言いつけるはず。

『うん...。新しいおとうさんがきてから、おかあさん忙しいみたいだし。』

悲しそうに、でも諦めているように笑って言ったメイの顔は今でも覚えている。

その顔を見たとき、私はこの子を助けなければ、と強く思った。今でもなぜそう思ったのかはわからない。

(わからないけど...とても心配になった)

いつか、壊れてしまうのではないか。

そう思ったのかもしれない。それからは、ルークに頼み、メイをうちの住み込みのメイドとして働かせることにした。

(あのとき、メイがどう思ったかはわからない。わからないけど、もしメイをあのまま帰していたら、私は後悔していたと思うわ)

メイはめきめきとメイドとしての頭角を現し、王宮で生活を始めるのを機に私の専属になった。

メイにとって、これが初めての大仕事なのだ。出来れば、いい思い出になって欲しい。

(お披露目は面倒だけど...メイは楽しみにしてるもの)

この夜会を失敗したくない。初めてそう思った瞬間だった。



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