第十話
ルークに連れられ、部屋に入ると煌びやかなドレスの数々が置かれていた。
(こんなに...?)
まさかすべてを買うわけではないだろうが、こんなに試着する必要を感じない。チラリと横を見ると、メイが着々とドレスを広げていた。
「リラ様、とても綺麗ですよ~!あ、これとかどうですか?」
メイが水色のAラインのドレスを見せてきた。肩を大胆にだしたデザインで、甘くなり過ぎていない。
「明日の夜会で着るものを先に選びますから。メイ、後は頼んだぞ。」
「え、ちょっと、ルークはどこに行くのよ」
私が慌ててきくと、ルークは振り向いて困ったように、でもイタズラをするように笑った。
「夕食の準備です。...それとも、リラ様のドレスのご試着を手伝えばよろしいんですか?」
「そ、そんなこと言ってないでしょ!ちょっと気になっただけよ。...行ってらっしゃい」
ルークが一礼して部屋を出ていった。
それからは、ドレスの試着の嵐だった。
(どれもそんな変わらないと思うんだけど...)
すべてのドレスを試着し終え、買うドレスを決めたのが日没だった。ヘトヘトになった私はソファに倒れ込んだ。
「お疲れ様です。今、お茶をお持ちしますね。」
メイが席を立った。
部屋の中がしん、と静まり返った。窓の外をみると、ちょうど空の色がグラデーションになっていた。
(綺麗...)
バルコニーにでると、少し風が吹いていた。
王宮で生活を初めて3日。まだまだ分からないことが多い。森にある城で、ルークや小さな頃から一緒にいた使用人と自由に暮らしていた時とは、何もかも違った。王族としてのしきたりが、生活を束縛しているように感じた。
(王族になれば、幸せになれるのかも知れないって思ったけど...、そんなことなかったわね。森で暮らしていた時の方が幸せだったのかもしれないわ)
そんなことを思っていると、メイがお茶を持ってきた。
「リラ様、お茶をお持ちしました。ルーク様が、もうそろそろ夕食だとおっしゃっていましたよ」
「そう。ありがとう。」
お茶を受け取って一息ついた。
(この後はレオ様と夕食なのね...。はぁ、今日は忙しすぎないかしら)
このままベットにダイブして眠りにつきたい気持ちもあったが、結局夕食をとりに移動した。
「リラ様、遅いですよ」
ルークから怒られてしまった。テーブルにつくと、口に含んだ。その直後、ドアがノックされ、レオお兄様が入ってきた。
「やぁ、リラ。ひさしぶりだね。」
「お久しぶりです、レオお兄様。」
淑女の礼をし、席に着いた。
「同じ王宮に住んでるのに、全然会えなくて寂しいよ。どう?もう王宮での生活は慣れた?」
「えぇ、少しは慣れましたわ。でも、まだ分からないことだらけで...。」
(うぅ...、今日はリラックスしての夕食は無理そうね...。)
レオお兄様は、嬉しそうにニコニコ笑っている。
後ろにはフェルド様が控えているが、止める様子はまったくない。こんな夕食の時間を過ごし、最後の食後のデザートになった。
(やっとデザート...!これで、もうすぐこの時間が終わるわ...)
ほっとし、運ばれてきたデザートをみた。
今回は、チョコレートのケーキだった。スポンジとクリームが二層になっていて、1番上にはチョコレートのオブジェが乗せられている。
一口食べると、濃厚なチョコレートが口の中に広がった。
「美味しい...」
一口、もう一口と口に運んでいると、あっという間になくなった。満足して最後のお茶を飲むと、こちらを見て微笑んでいるレオお兄様と目が合った。
「リラが気に入ってくれたみたいでよかった。後でシェフにお礼を言っておこう。」
「とても、美味しかったです。今まで食べたなかで一番美味しいチョコレートケーキでした」
私がお礼を言うと、レオお兄様はにっこり笑って言った。
「喜んでもらえたみたいでよかった。また一緒に食事しよう。」
(もうしばらくはいいわね...。気持ちは嬉しいんだけど)
私はニッコリ笑って応えた。それを了承と受け取ったのか、レオお兄様は満足したように出ていった。レオお兄様が部屋から出ていき、足音が聞こえなくなると、私はそのまま椅子に座り、はぁと息をはいた。
「ルーク、疲れた」
「お疲れ様です。部屋に戻りましょうか」
「う、ん...」
(気が抜けたから、一気に眠気が襲ってきたわ...)
瞼が一気に重くなる。ルークの声が段々遠くなって、私は意識を手放した。