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「ハーピア…君は…」
複雑な感情だった。うれしいような、悲しいような、それでいて怒りたい気持ちもあった。俺を騙し、本音を晒し、そして俺を殺そうとした。だけど殺さなかった。何もかもが わかるようで、何も知らない。
それが俺にとってのハーピアだ。
「再会を祝して思い出話…なんてする気はない」
ハーピアはシニカルに言い放った。
「記憶を思い出したのならさっさと話して。そうすれば命だけは助けてあげる。だけど抵抗するようなら私は君を殺さなければならない。私をどうにかできても、ゼメキスが君を殺す。彼は元グリーン・ベレーの筋金入りよ。何の躊躇もなく、容赦なく君を殺す」
「…それで君はいいのか。あんな奴の言う事に従って…」
「雑談をする気はないわ。余計なことを話すようならこの場で君を殺す」
ハーピアがハンドガンを俺に突き付ける。
「死体からでもサンプルは取れる…それがお父様の理屈。あなたの価値なんて細胞の奥底にあるDNAと不都合な情報が入っているかもしれない記憶だけよ」
撃鉄を上げる音が聞こえた。
「さぁ、話して。全部思い出したんでしょ。あの女との蜜月も、ナイトクラウド家の暗部につながる物証も…。さっさと話してよ」
「…その記憶にもう価値はない」
「もったいぶらないで…!」
ハーピアは苛立たしげに銃を近づけた。
「もう終わらせたいの。お前がいるせいで何もかもが最悪。おかげで今じゃ処分対象の筆頭よ。今私は試されているの。またお前をものにできるかどうかってね。だけど私はもうお前の顔も見たくない。さっさと死ぬか、お父様の子飼いになるかして。二度とその顔を見なくていいなら、清々する」
「…だったら、どうして俺を殺さなかったんだ?」
ハーピアの表情が歪む。
「あの時、君は俺を殺せた。俺を殺したら…そんな風にはならなかったのに…」
「黙れ」
「俺を殺して…君が幸せになるとは思えない」
「黙れ」
「君が俺を…人を殺すことを望んでいる風には見えない…」
「黙れ!!」
ハーピアが俺の胸倉を掴んで仰向けにし、額に銃口を押し付けた。




