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「OK。財布持ってくるわ」
上機嫌になったイリスはショルダーバッグから財布を出して中身を確認し始めた。
楽しそうだな。イリスの一挙一動を眺めながら、俺は思う。
初対面で、まだ会って1時間も経っていないけど、俺とイリスの関係の「形」がなんとなくわかってきた気がした。
スーパーで買出し、キッチンで並んで料理。我ながらこうもきれいに恋人のテンプレートをやるとは。やっている自分が気恥ずかしくなるけど、正直うれしい。
ただ作った料理がガンボというよくわからないものだったけど。アメリカ南部の伝統料理らしい。
「クセになるんだから」
イリスは得意げに、カレーともビーフシチューともにつかないガンボを炊いた米にかけて差し出してきた。
確かにうまい。独特なスパイスの香りが鼻を抜ける。また新しい体験だ。
「なんか懐かしい感じがする」
「作ったの初めてだよ?」
「イリスの手料理だからかな?」
「適当ばっかり」
イリスがおかしそうに笑う。
「そういえば」
全部食べておかわりした後、俺は思い立ってイリスに尋ねた。
「荷物持っているけど、チェックインしていないのか?泊まるホテルは?」
「ないわよ」
「え?予約していないのか?」
「する必要ないじゃない。ここがあるんだし」
「へ?」
「何その顔。ここは女の子一人寝られる部屋もないの?」
そんな展開か。
俺はしどろもどろになる。
「え、泊まるの?いつまで?」
「うーん…しばらく?帰りのチケット取ってないのよね」
「えーっ…。空いているの父さんの部屋だけだし、父さんお盆に帰ってくるし…」
「あらそう?挨拶するいい機会だわ」
「マジでか…」