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「奇妙な…商品?」
「精子と卵子よ」
口に含んでいた炭酸水を吐き出しそうになった。フェリシティには案の定の反応だったらしく、楽しげにニヤついている。
「精子バンクや卵子バンクなんて今となっては珍しくもなんともない。ローレンスが作ったのはセレブリティやらエリート向けの三ツ星クラス。世界の名だたる天才や突出した才能の子種や卵を豊富に取り揃えていたわ。何より遺伝子操作技術が飛びぬけていてね。それこそ思い通りに子供をデザインできる。容姿から体質、性格までね。そこからローレンスはデザイナーベイビーの製造にまで事業を発展させた。ロバート・グラハムみたいに大々的にやっていなかったけど、とびっきり優秀な子どもを作りたいという金持ち共には大好評だった」
「そんなの…」
「ありえない?ただ残念、アメリカじゃ珍しい話ではないわ。遺伝子に手を加えられた子どもなんて100万人を越えている」
精子バンクや卵子バンクという言葉はニュースや新聞で見たことはあるが、ここまで間近に触れたことはない。
「ただ、ローレンスがこの事業を発展させてからナイトクラウド家の黒い噂が再び流れてきた。デザイナーベイビーを利用して各諜報機関で使えるエリート集団を作っているだの、政府に不都合な人物を遺伝子サンプル採取も兼ねて暗殺しているとか…おおよそ陰謀論めいたものが多かったけどね」
「本気で信じているんですか?」
「まさか。エビデンスがあるか、ありそうなものだけよ。でもナイトクラウド家がご用達の黒い人脈を使い始めていることや権力者と結託して色々やっているのは事実だった。FBIとしても、あんまりナイトクラウド家が暴れまわるのは放置できない。連中が政治家だの官僚だのを含むセレブリティと付き合っているからといって、指をくわえているわけにはいかないのよ」
「なんか…すごい話ですね」
後、初めてフェリシティがFBIっぽく見えた。これを言ったら怒られそうだから言わなかったけど。
「でもナイトクラウド家のガードは鉄壁。周りに偉いお友達がたくさんいるから入り込むのもままならない。そんな中私達はある突破口を見つけた。ここからあなたの言った話に繋がるわけね」
―――父は祖母を創ろうとした。
ローレンスはハーピアやイリスをエレクトラにしようとした。