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ヘブンズゲート・クライシス  作者: 遠藤 薔薇
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「お前…やっぱ良い奴だな」

『まぁ俺なりの責任よー。とりあえずどうにかなりそうだし、ここまでにするわー』

「…本当にありがとう、槇原」

『俺も筋通せたみたいでよかった。まぁ次は上手くいくといいなー』

槇原との電話を終えた俺はまよわずもらった名刺を手に取った。書き込まれた電話番号を打っていく。

やれるかはわからない。できるかはわからない。

でも可能性はある。とっかかりはある。

やる理由があるのなら、やれる可能性があるのなら。

答えは決まっている。いや、決まっていたんだ。


『こんなに早く連絡が来るなんて思わなかったわ。ホテルに戻って一杯やろうとしていたのに』

2回のコールですぐに対応してきたフェリシティは半ば呆れた様子だった。

『それじゃ、私に電話してきた理由を聴こうかしら』

俺は息を吸って、しっかりした声で言った。

「俺をニューヨークに連れて行ってください。そこでなら、全部の記憶を思い出せると思うんです」

『…まぁ、現場に連れて行けば思い出せる可能性は高くなると思うわ。記憶への取っ掛かりも多いことでしょうし。こちらとしても捜査に協力的なのは願ったり叶ったり。あなたの証言には得難い価値がある』

好意的に答えた後、フェリシティは声のトーンを低くした。

『…ただ、あなたがニューヨークに行く意味はわかっている?相手のホームグラウンドに再び踏み込むことになる。ナイトクラウド家があなたへの殺意を捨てていないのなら、狩場に獲物が入ってきたのを見逃しはしないわ。もちろん私達がサポートするけど相手はアルカイダばりの攻撃を仕掛けてくる連中よ。次はどこのビルがあなたごと吹っ飛ばされるかわからない。まぁ、ハッキリ言って身の安全は保障しかねるわ』

「わかっています。でも、俺は思い出さなきゃいけない。思い出して、そこに大切な想いがあったら、届けなきゃいけない。届けなきゃいけない相手がいるんです」

『それはハーピア・ツヴェルフ・ナイトクラウドのこと?』

「はい。俺は彼女に伝えなきゃいけないことがある」

『随分とセンチメンタルなのね。まさか本気で惚れたの?』

「ハーピアは言っていました。イリスは自分達を助けるためにナイトクラウド家を裏切ったって。だけどイリスは殺されてしまった。想いも果たせないまま…。それを受け継げるのは俺だけなんです。俺がやらなきゃいけないんです」

『…な、る、ほ、ど。死者の意志を受け継ごうって話ね。殊勝な心掛けだわ』

フェリシティは楽しげに言った。興味のあるなしで対応が極端に変わる人らしい。

『今夜7時に迎えに行くわ。ちょうどディナーの相手が欲しかったの』

「シラノさん…ありがとうございます」

『ファーストネームで呼んで構わないわ。信頼の証よ。私は自らコインを投げる者を歓迎する。表が出ても裏が出ても結果を受け入れられる者ならなおさら、ね。とりあえずディナーの席で話の続きをしましょう。ナイトクラウド家の踏み込んだ情報も教えてあげるわ。それであなたが揺らがなければあいいのだけど』

「覚悟しています」

『期待しているわ』

電話を終えた俺はベッドで横になった。

改めて自分の決断の重さを覚える。俺はこれからとんでもない世界に飛び込もうとしている。無謀なことだろう。今度こそ本当に死んでしまうかもしれない。

だけど、何もしないでここに引きこもるよりずっといい。イリスやハーピアのことを忘れたふりをして、安全圏でのうのうと過ごすのは勘弁だ。もしそれをやってしまったら、俺の感じたものが嘘になってしまう気がする。イリスに抱いていた気持ち、ハーピアに抱いていた気持ち、それら全部を嘘になんてしたくない。

絶対に、したくないんだ。


迎えに来たフェリシティが次に連れて行ったのは、これまたシックな趣のイタリアン・レストランだった。場所はお台場の近く。夜の海と夜景を眺めながらディナーを楽しめる  

レストランだ。これまた俺の身の丈と全く釣り合っていない。

「あなたのランチとディナーの食費でPS4が買えるわよ」

先導するフェリシティがいたずらっぽく言った。1日でPS41台分の食費とは…贅沢が過ぎるというものだ。

「フェリシティさん」

ランチの時より幾分緊張が和らいでいた俺は、案内された個室に入るなり口火を切った。

「電話で言った踏み込んだ情報って…」

「せっかちなのね。でも女性とのディナーはムードを大切にしなさいな。アミューズと食前酒が終わってからにしましょう」

優雅にふるまうフェリシティにヤキモキしたが、まだウェイターが中にいる。俺は自分の先走りに赤面してイスに座った。気が逸り過ぎていた。


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