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記憶喪失を能天気に捉えていた自分が恥ずかしくなった。知らないからといって手を抜いていいことなんてない。わからないからといって目を背けていいことなんてない。
見えない正解を辿るように、俺は歩かなければならないんだ。
とりあえず、近い内にもう一度アメリカに行こう。夫婦のお墓に手を合わせてこよう。
思い出せなくても、お世話になったのは間違いないのだから。ちゃんと感謝を伝えなきゃ。
「…和嵩?」
イリスが俺の顔を覗き込んでいた。身を乗り出して、テーブルの上に乗っている。
「う、わっ!」
至近距離にイリスの顔があることに気づいた俺は思わずビクついた。
「何よ。私はチャッピー?それともグレムリン?日本っぽくいったらピカチュウ?」
「なんで最後だけカワイイ奴なんだよ」
「全体的にカワイイものでまとめているじゃない」
「前半2つ化け物だろ…」
「誰が化け物よ!」
頬を膨らませ、イリスは腕を組んでそっぽを向く。子供じみた仕草に俺は毒気を抜かれた。彼女に倣って座り直した時には、俺の中にあった陰鬱な気分は消えていた。
「…思い出しちゃったね。ゴメン」
「思い出せないよ。だから、大丈夫」
なるべく笑顔になって俺は答える。大胆かと思ったら、意外と繊細なんだ。
眼を背けていたイリスは俺の表情を窺うように一瞥して、また表情をポジに切り替えた。
「和嵩、お腹空かない?ランチにしましょう!」
「あ‥あぁ、そうだね。そういやまだ何も食べてない。えーっと、イリスは何がいい?近くの店でよければ…」
「それも魅力的だけど、ここで作りましょうよ。せっかく和嵩の部屋にいるんだし」
「そこまでしなくても…」
「させてよ、恋人らしいこと。何もできなかったからさ。」
それは俺の方だ。
そう言いかけたけど、俺はやめた。俺への優しさと後悔が入り混じったイリスの想いを汲んでやらねば。
「…そうだな。ありがとう」
「冷蔵庫の中に何ある?腕を振るってあげる」
「あー…多分冷凍食品とかしかない。買出しにいかないと」