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「不思議な気分。まるで追体験よ。初めて会った時もそんな風だったわ」
「そうなの?」
「目を丸くして、誰コイツみたいな顔をして。でも私が6年前にあったあの子って話をしたら、そんな風に笑った。でも私もうれしかったわ。あぁ、変わってないんだなって」
懐かしげにイリスが話す。
「それから連絡先を交換して、何回も会って…。君から告白してくれて。そこから毎日手をつないでデートできるってワクワクしていた。でも…私が用事でサンフランシスコに行く羽目になって…あの事故があって」
語尾が沈みかけたが、イリスは首を振って持ち直した。
「本当によかった、また会えて。和嵩がいたアパートがガス爆発で燃えて…最初泣いちゃったもん。死んだんじゃないかって。でも一人だけ生き残った東洋人がいるって聞いて、もしかしたらって思ったんだ。用事を片付けて、朝イチの便でニューヨークに戻ったはいいんだけど、和嵩はとっくに退院して日本に帰っていた」
「それは、ごめん。君を忘れるなんて最低だよな」
「仕方ないわ。記憶喪失になっていたし、それに誰も私のこと知らなかったでしょ。君は私生活にオープンなタイプじゃないから」
「あぁ、いや。うっすらと聴いてはいたんだ」
イリスがいぶかしげに眉をひそめる。
「本当?」
「うっすらとだけど。『彼女』とは会えたか、みたいな。実際俺は君のことをペラペラ話してはいなかっただろうけど、多分感づかれていたとは思う。俺、そこまで器用じゃないから」
「そう…」
イリスは考え込むような表情になったが、すぐに笑顔に戻した。
「でもケガがなくて安心した。ひどかったのよ?部屋の中の死体はみんな黒焦げで。和嵩はたまたま窓から落ちたから焼けなかったって。それでも、3階から落ちて打撲だけで済むなんて充分ラッキーだけど」
「どれくらい…死んだんだ?」
「深夜だから住人が全員揃っていたのが最悪だった。もう小さなアパートだけど住人は君を抜いて16人。後は管理人夫婦を入れて18人ね」
アメリカではあまり事故の詳細を聴かされていなかったが、改めて知ると暗い気持ちになる。大惨事だったのだ。2桁の人間が死ぬほどの。
アメリカの友人から、アパートの管理人でホストファミリーだったトムソン夫妻は穏やかで優しい夫婦だったらしい。覚えていないことが申し訳なかった。