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髪の色、瞳の色、佇まい、雰囲気、話し方。
一つ一つのピースを拾って頭の中で組み立てる。全てが揃った時、然るべき画が出てきた。
「まさか…君…あの時の…女の子?6年前の…」
「またその話?相変わらずね。ベーカリで会った時もその話からだったわ」
あの時の少女は安堵したような笑みを見せた。目元に切なさを残しながら。
「そう、6年前の、あの時の女の子よ」
信じられない。さすがに都合が良すぎる。
「そしてあなたの恋人」
思い出が時を越えてくるなんて。
「私はイリス」
それこそ、ライトノベルじゃないか。
とりあえず炎天下にいたいけな少女を晒しておくわけにはいかないので俺は彼女を部屋に通した。ダイニングの椅子に彼女を座らせて、俺は冷蔵庫から麦茶を出す。来客といえば来客、礼儀は尽くさなければならない。
2人分の麦茶をテーブルに並べ、イリスの向いに座った時、俺は我に返った。
女の子と2人きりなんていつぶりだろうが。前の彼女がいた時以来だから半年ぶりか。この広めのリビングダイニングと寝室を備えた1DKの部屋は名義こそ父親だが実質的に俺の一人暮らし。下世話な表現なら連れ込みし放題だ。
だけど俺は節度があるのか甲斐性がないのか、前の彼女以外で女の子を連れ込んだことはない。前の彼女で慣れたつもり(慣れるのもどうかと思うが)でも、別の女の子を入れたという現実にはやっぱり緊張する。どうすればいいのか、頭の中のマニュアルをめくると「飲み物を出してやる」「上座に座らせる」と頼りない記述ばかり。
おまけに相手が6年前に会った少女であるという驚きと初めて名前を知った上でこんな間近にいるという現実感の無さに、俺は浮足立つばかりだ。
「日本語、上手だね。あの時もだったけど」
「なんか他人行儀」
当たり障りのない話を始めた瞬間、イリスは口を尖らせて遮ってきた。意外と容赦ないな。6年前はもう少しおしとやかだった気がする。
「ま、和嵩からしたら私は6年ぶりにあって見違えるくらい美人になった初恋の人なんでしょうけど」
ものすごいくらい自分をほめるんだな。
と思いつつも、気を許した相手に見せる可愛らしい仕草に思わず俺の口元がほころぶ。