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ヘブンズゲート・クライシス  作者: 遠藤 薔薇
4/112

4

長くなったがこれが俺の現在だ。

記憶が吹っ飛んだだけでもなかなか奇特な経験なのに、自分でさらにややこしくしているきらいがあるのは否めない。

独白はこれくらいにして現実に戻るとしよう。


終業式終わりで昼過ぎに下校したものの、俺は遊びに行く気分ではなかったのでまっすぐ家に帰った。汗で濡れた額を拭い、俺は帰路につく。

せっかくアメリカに留学したのに、俺が覚えているのは病院と空港と空港までの道だけだ。日本とは違う景色だったけど、テレビや動画で見ているような気分だった。

なんていうか、実感が抜けていた。

VRでも見ているような、そんな感じだ。ただの記憶で、思い出ではない。

そう考えると、件の「彼女」はもっとひどい。記憶にすら残っておらず、ただ情報があるだけだ。実感もへったくれもない。

自宅のマンションが見えてきた辺りで、エントランスの前に一人の少女がいることに気づいた。古風なトランク型のキャリーケースの上に退屈そうに座っている。上品な白い日傘をさしているが、少女は小ぶりなショルダーバッグにライトグレーのフード付きのミニのワンピースを着ていた。どこかアンバランスな格好だ。

うーん。「彼女」もあんな感じかな。いや、イメージと違う。俺のイメージはもっと深窓の令嬢…って感じ。白いワンピースと日傘。「風立ちぬ」の菜穂子みたいな。

いや、それは妄想が過ぎるだろ。

自嘲しながら俺はエントランスに入ろうとする。

「あっ!」

素っ頓狂な声で俺は足を止めた。多分、少女の声だ。

俺はわずかばかりの嫌な予感と一緒に振り返った。少女が立ち上がり、キャリーケースを引きずりながらどんどん近寄ってくる。

「やっと見つけた!遅いよ。レディを炎天下にさらすものじゃないわ。知っている?紫外線って日焼けだけじゃなくて皮膚ガンの原因にもなるのよ。間接的に私を殺す気?」

眼前に立つまで饒舌にまくしたてた彼女は俺をジッと睨み上げた。遠目ではわからなかったが、アッシュグレーのショートカットからして外国人か。アングロサクソンっぽいけど色が違う。瞳の色は薄い緑色。北欧系かな。とりあえず同い年くらいなのはわかる。

っていやいや、問題はそこじゃなくて…。

「あ、あの…ちょっとよくわからない…」

「何が?」

「展開と…あなたが」

途端に、彼女はゾンビに遭遇した時のような驚愕の表情を浮かべる。

「失礼ね!私を忘れたっていうの?ありえない…。あなたの人間性と記憶力を疑うわ」

「あぁ、まさか、君って…」

もしかしたら、短期留学中に会っていた人か?だったら事情を話さなければいけない。

俺はとりあえず爆発事故にあって記憶が吹っ飛んだことを話した。最後に「思い出せなくて申し訳ない」とちゃんと謝罪を添えて。

すると彼女の表情がまた変わる。今度はとびきり悲しそうに。

「…ごめんなさい、あなたの事情をないがしろにしていた」

次は唇をかみしめて、悔しそうに。表情が鮮やかに変わる子だ。

俺は彼女に見覚えがあることに気づく。あれ?誰だっけ。外見的にアメリカで会っていそうだが、そうだったら記憶にないはずなのに。どうして覚えている気がするんだ。

デジャヴにしては妙に鮮明だ。

「記憶喪失になっていたなんて…知らなかった…」

「ごめん、スマホが焼けてしまったから連絡ができなかったんだ。向こうの知り合いには全員会ったと思っていたけど…」

「それはいいの。事故の日はサンフランシスコにいたし…すぐに空港に駆け込みたかったけど、用事が立て込んでいてすぐ動けなかった。連絡も取れなかったし…会えなかったのは仕方ない」

落ち込みかけていた彼女だが、すぐに顔を上げて俺に詰め寄った。

「でもこうやって会いに来たわ。日本は久しぶりだったから道に迷いかけたけど、会いに来た!ほめてほしい。頭を撫でておでこにキスをして抱きしめてほしい!」

「ちょ、ちょっと待って!やっぱりよくわからない、わからないよ!」

ロウからハイになるのが早すぎる。俺は少し後ずさった。

距離を置き、落ち着いて向き合うとやっぱり彼女に見覚えがある。


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