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6.君の声
翌日、日曜日に俺は所用があった。友人の槇原誓悟と映画を観に行く。待ち合わせは池袋で⒒時。普段は昼近くまで寝ている俺だが、今日は9時に起きて身支度をしていた。
槇原は高校に入ってから一番つるんでいる友人で、演劇部に所属していた。見かけは少しチャラいが、根は良い奴だ。見かけに反して理屈っぽく、饒舌なのがたまに傷だが。
彼女はまだ寝ていたので俺は自分で朝ご飯を作っていた。朝ご飯といっても、彼女のように手の込んだものは作れないから簡単なものだ。
食パンにマーガリンとイチゴジャムを塗るだけ。オレンジジュースをグラスに入れてパクついていると寝室の扉が開いて彼女が姿を見せた。寝ぼけまなこで寝癖が目立っている。
思えば彼女より先に起きたのは初めてだ。
「あれ?和嵩?」
「おはよう」
「どうして…あ、そっか。友達と映画か」
あくびをこぼしながら彼女は洗面所へ向かう。彼女が歯磨きやシャワーをしている間に俺は彼女の分の朝食を用意する。
普段作ってもらっている以上、今日は俺が作る番だ。といっても、俺の作る朝食は彼女のそれより格段下だが、何も作らないよりはマシだろう。
俺は食パンをトースターで焼き、卵とベーコンを取り出してベーコンエッグを作る。ベーコンエッグは我ながら無難なチョイスだと思う。卵単体の料理は技量の差が出るが、ベーコンがセットなら大体おいしくなる。
ちょうど朝食の準備ができたタイミングで彼女は戻ってきた。
「いいにおい。作ってくれたんだ」
「いつもやってもらっているからな」
「ありがとう」
彼女は席について朝食を食べ始める。俺はコーヒーを淹れて彼女に差し出した。
ふと、彼女の様子が気になった。立ち振る舞いはいつも通りだが、どこか疲れている感じがする。やつれているとまではいかないが、いささか生気が落ちているような感じがする。
端的にいえば、元気がない。
「…何かあった?」
出し抜けな俺の質問に彼女は目線だけを返した。微かに苛立ちを称えている眼差しだ。俺は思わず息を呑む。