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ヘブンズゲート・クライシス  作者: 遠藤 薔薇
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3

2つ目は軽傷だったこと。診査さえクリアすれば俺はすぐに退院できる状態だった。

この2つの幸運のおかげで俺は思ったより早くアメリカから帰国できた。だけど事態が根っこからひっくり返ってくれるような幸運までは訪れてくれなかった。

俺の記憶は回復しないままだった。ケガの回復、カウンセリング、俺が留学中に出会ったと称する友人達との会話。どんな過程を踏んでも記憶は蘇らなかった。

とりあえず学校にも思いの外早く復帰できたことで俺の日常は取り戻された。一応短期留学で単位は補填できていたので、夏休みを補習漬けにすることも避けられた。日常生活に支障はないし、高校の友人達や家族などのことは忘れていない。短期留学中に出会った自称友人達とも本当の友人になれた。瓢箪から駒って奴だ。

ただ、能天気を気取る俺にも引っかかることがあった。

アメリカで知り合った友人たちが口々に妙なことをいうのだ。

―――「彼女」とは会っていないのか?

在米中、俺はある日からホストファミリーだったトムソン夫妻(爆発事故で夫婦共に死亡した)やアパートの住人にある女の子を探して回っていたらしい。おまけに俺がラブレターを書いてアパートのあちこちに置いていたとか。トムソン夫婦からその話を聞いていた友人達が俺に「彼女」がいると考えたそうだ。

しかし、俺に彼女や恋人と呼べる人はいない。付き合ったことが全くないわけじゃないけど、少なくともここ半年はいない。前の彼女とは年が明ける前に別れた。

おまけに「彼女」がいたということ自体、確定情報じゃない。ただ俺が誰かを探していた、ラブレターを書いてコミュニケーションを取ろうとしていた。

「やっと見つけたんだ。邪魔しないでくれ」

俺は問い詰めてきた友人にそう言っていたらしい。

「見つけた」ということは、俺は「彼女」に直接会っていたのだろうか。それとも何らかの痕跡を見つけたのだろうか。

そしてその結果はどうなったのか。実際に会ったのか?告白したのか?付き合ったのか?

…いや、それはないだろう。もし実際に会って、告白して、付き合っていたのならもうちょっと状況は変わるはずだ。入院中にお見舞いに来るだろうし、スマホがメモリごと吹っ飛んだとはいえ、なんらかの形で接触してくるはずだ。

そもそも遠い異国の地で、一カ月弱で出会いと恋愛と告白の三拍子を成功させるなんて都合良すぎだ。

恋愛ドラマじゃあるまいし。

青春ラブコメじゃなかろうに。

なんだか変な気分だ。付き合っているかどころか出会っているかどうかもわからない「彼女」のことを真剣に考えている自分。滑稽で、恥ずかしい。間抜けもいいところだ。

だけど妙な手ごたえのようなものを感じていた。「彼女」について考えることに間違いはないと、俺は考えなければいけないと。

何の確信もないのに、何の根拠もないのに、俺はなぜかそう思えていた。

もしかしたら、あの時の―――。

余計な記憶まで鎌首をもたげてくる。

おいおい、待て待て。そこにつながるのはさすがに都合が良すぎる。

そんな思い出が時を越えて蘇ってくるなんて。

それこそ、ライトノベルじゃないんだ。


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