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「自分で好きなように生きていい…」
当時の俺は充分好きなように生きているという自覚はなくても、客観的に見たらそうなっていたのだろう。きっと両親のおかげだろうけど。
「考えるだけムダなんだけどね」
自虐するように彼女は言った。
「俺は今でもいいと思っているけど…ダメなのかな」
「それでいいんだよ。もし運命ってものがあるなら、私達はここでいいからここで生かされているんだよ。きっとここよりいい場所なんてどこにもなくて、今以上にいい生き方なんてなくて。私が今ここにいて、君と話している以上に良いことなんてないんだよ」
「それは、違うよ?」
彼女が眉をひそめたので、俺は失言したかと思ったが、それでも続けた。
「俺さ、母さんがちょっとした有名人で…天才の子供って感じで周りから色々言われたんだ。正直うざったくって…しんどかった。母さんみたいなことをやらなきゃいけないのかなってみんなが俺に想わせようとしているみたいでさ。でも母さんや父さんは違った。俺は俺でいいって。余計なことは気にしなくていいって」
「君のお父さんやお母さんはいい人なんだね」
「変な人だけどな。でも、おかげで俺は自分の思うように生きていけるようになった。まぁ、かといって何がしたいとか、何になりたいとかはないんだけど…」
「…君が正しい」
少女はため息を吐いた天井を仰いだ。
「君はとても幸せだよ。迷ったり、悩んだりするだろうけど、それはこの世界に選べる道がたくさんあるってこと、なれるかもしれない自分がたくさんいるってこと。それだけ多くの可能性に触れられることは本当に幸せなことなんだよ」
「それは君だってそうだよ」
「私には無理だよ」
悲し気に答える表情を見て、俺は思わず身を乗り出した。
「俺にだって無理だ。でも、母さんや父さんが力を貸してくれた。誰かが手を貸してくれたら絶対に何かが変わるんだ。君だって、そんな人が絶対傍にいる。絶対力を貸してくれる。いないのなら、俺が…」
不意に少女が目をパチクリさせた。
「君が?」
「あっ…」
余計な一言だった。俺はイスに座り直してうなだれる。
「ごめん、おせっかいだった」