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迷子じゃなかったら…というパターンを想定していなかった。拒否されている訳じゃないし、このまま話せる状況になった。
でもその状況になったらからといって何をどうしたらいいかはわからない。
少女はジッと俺を見て答えを待っている。無言の催促。
俺は必死で何をするか決める。
「と、と、とりあえず…話そう」
「ダメ、退屈」
まさかの却下。
もう俺は手詰まりだ。将棋なら投了している。
「デートしよう」
「へ?」
思いがけない言葉に俺は変な声を上げてしまう。少女は俺の返答も待たず、俺の手を握って歩き出した。
「どうせヒマしてたし、君もヒマそうだし。ちょうどいいじゃない」
「いや、でも、どこに…」
「考えて!」
思いっきり主導権を握っておいて行先を決めるのはなぜか俺。
それでも当時の俺は律儀に、素直に行先を考えた。
「ちなみに私お金ないから!おごってね」
そんな無茶苦茶な。
それでもやっぱり、俺は律儀に、素直に行先を考える。
「じゃ、じゃあ…」
俺が思いついたのは小学生らしい、今ならおおよそ思いつかないし思いついたとしても実行に移さないであろうプランだった。
市ヶ谷の釣り堀に俺と彼女はいた。彼女は初めて見る施設にキョトンとしている。
「ここは何?何をどうする場所?」
「えーっと…。魚を釣る…」
「魚釣り?ビルばっかりの中で?」
少女はおかしそうに口元を抑えた。
「何それ。女の子連れていく?フツー。この国の人はデートで魚を釣りに行くの?」
「ごめん…」
ダメだったか…と肩を落とす俺の背中を、少女は元気よく叩いた。
「面白いじゃない。変な店に連れていかれるよりずっとマシだわ」
少女に引っ張られ、俺は受付の方に向かう。