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イリスの様子がいつもと違う。さっきまでは普通に楽しんでいたのに、今の彼女はどこか辛辣だ。機嫌を損ねたのだろうか。でも怒っているというより苛立っているように見えた。
「…ごめんね、ちょっと変なこと思い出しちゃった」
「気にしないでくれ。でも、変なことって?」
「くだらないこと」
イリスは立ち上がった。髪をなびかせ、笑顔を見せる。
「お腹すいちゃった。機嫌直しは口直しでね」
次のプランはナンジャタウン。
ちょうどアニメとのコラボイベントが催されていた。だが俺もイリスもそのアニメを知らないので、目当ては餃子だ。
「女の子にガーリック入りの料理って普通薦める?」
痛い先制パンチを食らった。正論だ。
「あぁ~…おいしいんだよ、本当…ごめん」
「ま、いいけど。中華は嫌いじゃない」
適当に買った4種類の餃子を囲み、俺とイリスは昼食にありつく。小言を口にしたけどイリスは結構餃子を気に入ったみたいだった。地味に俺より食べて、おかわりしようとしている。
「太るかしら」
イリスは新しい餃子の皿を持ってきて言った。
「炭水化物はカロリーも高そう」
「イリスは充分やせているよ」
「女は理想が高いもの。追いかけるのも、求められるのも」
「そういうもんかなぁ」
日々の積み重ねがあのプロポーションを保つ秘訣だろうか。運動部が肉体を維持するみたいな。でも野球部連中なんてラーメン大盛りに食らいついている。男女の差なのかもしれない。
「あっ」
イリスの口元に目が留まった俺は思わず声を上げた。イリスが首を傾げる。
「何?」
「あぁ、その…口元」
唇の左端にみじん切りのキャベツがくっついている。指摘された意味を察したイリスは顔を赤くして俺を睨んだ。