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惚れ直した?」
向かいに座ったイリスが得意げにウインクした。
「うまい…」
「日本の食材は少し小さいかな。もっと大きいサイズのものがあればよかったのに」
「これくらいでいいよ。朝からそんな食べられないし」
「食べる男は素敵よ」
フォークとナイフを動かす音が響く。普段一人暮らししている時には聞こえない音だ。アメリカで俺はこの音を聴いていたかもしれない。そう考えると少しなつかしさがこみあがる。
「ねぇ、記憶は戻った?」
出し抜けにイリスが訪ねてきた。俺はパンケーキを切っていた手を止める。
「いや、まだ…」
「そう」
「でも、がんばるよ。イリスが来てくれたおかげで、何かが使いそうな感じがするんだ」
これは胸を張って言える。今のところは。
「なんていうか、イリスと一緒にいると懐かしい感じがするんだ。6年前に君と出会えた時の感じが戻ってくるというか…」
「あの頃はお互い12歳とかじゃない?ちょっとかけ離れ過ぎている」
「そうだったな。だけど、俺とイリスが始まったのはあの時だから…」
イリスはトマトにフォークを刺した。種が飛び出す。
「すごい、偶然だよな。6年前、たまたま出会って、お互い名前も知らない2人が、アメリカで出会うなんて…ちょっと出来過ぎている感じがするくらい、すごい奇跡だよ」
「私の方だって。まさか君につながるなんて、思ってもみなかった。君のことは忘れられなくて、ずっと想っていて、いつか会いに行きたいって…そんな風に考えていた」
あの頃を思い出しているのだろうか。イリスの瞳が寂しげに伏せていた。
俺は顔が赤くなるのを感じる。自分がそこまで思われているなんて考えたこともなかった。
「何?照れているの?」
「あ、ごめん、ちょっと…面と向かって言われると気恥ずかしくなって」
「もう、ビックリよ。6年前のヒーローがこんな朴念仁のトーヘンボクで、エスコートが下手で、マイペースだなんて」
意地悪くイリスが言う。
「ヒーローって。そんなんじゃないよ、俺は」
6年前の俺はそんな風じゃなかった。イリスの思い出補正だ。




