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視線。小さな体。向き合った笑顔。
あぁ、君は誰なんだっけ。よく知っている。
俺は君を知っている。
名前が出てこない。
君は…君は…。
「…たか。和嵩。かーずーたーか!」
体が揺さぶられたと同時に俺は目覚める。ぼやけていた焦点が正常に戻ると、眼前にイリスの顔が現れる。
「うわっ!」
思わず跳ね上がった瞬間に俺はイリスの額に自分の額をぶつけた。
しばらくお互い額を抑えていると、先にイリスがおかんむりになる。
「ちょっと…朝からヘッドバットっておかしくない…?頭の使い方がおかしい…」
「ごめん…」
意外とイリスは石頭だった。
「もう、調子狂うな…」
イリスは涙目で額を撫でながら言った。
「とりあえず、朝ご飯使ったから…。お米とみそ汁じゃないけど、いい?」
「ありがとう…」
鼻を香ばしくて甘い匂いがくすぐる。俺は起き上がり、歯を磨きにいった。
俺はリビングで寝ていた。ソファの上でごろ寝だ。イリスは一緒のベッドで寝ればいいと言ってくれたが、さすがにそれは断った。俺の体感上では初対面の女の子と一緒に寝るのは躊躇われる。理性的な決断だ。…うん、間違いない。
断った時、イリスはちょっとしょんぼりした顔をした。申し訳なさを感じたが、ぐっとこらえた。例えベッドを一緒にしたからといって俺がすぐに手を出すとは限らないけど、その意志をちゃんとした行動で示したかった。万が一がないように。
でも、イリスが結構その気だったら…という予感もある。アメリカ人は日本人より性欲が強いって話もあるようなないような。
…いやいや。俺は滲み出てきた後悔を振り払った。それは都合のいい妄想だ。根拠のないことだ。そんなことを真に受けるなんてばからしい。
テーブルの上には皿に乗ったパンケーキがおかれていた。バターとメープルシロップがかかっている。別の更にはレタスとトマトのサラダ、スクランブルエッグ、カリカリのベーコン。牛乳とオレンジジュースも置かれていた。
「ホテルの朝食みたい…」




