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ヘブンズゲート・クライシス  作者: 遠藤 薔薇
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ハーピアが俺の胸を叩いた。何度も何度も。

「おまけにあの女と同じ台詞を口にした!最後に会った時、寝る前の私にあの女は言ったのよ!『ハーピアは幸せになってもいいだよ』って!どいつこいつも勝手なことばっかり!私は運命を受け入れたの。力に屈したとか、弱い人間だとか、何を言われてもいい!私の生き方はこれでよかったの!イリスがいればそれでよかったのに…!」

叩かれた胸の痛みは俺のものじゃない。これはハーピアのものだ。ハーピアがずっと抱えていた痛みなんだ。

「私の絶望はイリスがいなくなることだった…。最後に会った日の翌日、イリスはいなくなった…。何も告げずに、何も残さずに、いなくなった。その後お父様から聴いて愕然とした。ナイトクラウド家の機密を持ちだして、あっちこっちにばら撒こうとしていたの。バカだと思わない?!そんなことをしてもどうにもならない。お父様に先を越されるだけよ!案の定、イリスの目論見は失敗だった。リークしようとしていた相手をお父様が片っ端から突き止めて殺していったんだからね。1人、また1人殺されていく話を聞いた時、私は心臓が握りつぶされそうな気持だった。お父様が少しずつイリスに近づいている。ここまで逃げている以上、お父様は確実にイリスを殺す。最悪な未来がもう間近に迫っている…その実感が怖くて怖くて…」

ハーピアは叩くのをやめた。それもできないくらい、感情が溢れ出ていた。

「結局イリスは殺された。隠れていたアパートごと、炎で焼かれた。イリスの焼死体を見た時、私は吐きまくったわ。涙なんて流したら目をつけられる。だから涙の代わりにするみたいに…。だけどあの手紙の破片を見た時、それは憎しみに変わったわ。あの女、さんざん私を助けるといっておきながら初恋の男と乳繰り合っていた…!私がローレンスにこきつかわれている間に…!挙句ローレンスは、私にお前と接触するように命じてきた。嫌だった。本当に嫌だった。私を捨てたイリスの代わりをすることも、イリスが惚れたお前の相手をすることも…!どいつもこいつも、私の気持ちなんて考えちゃいない。好き勝手に私を振り回して、絶望させて…!」

「だけどそれは、君の誤解だ…!」

「黙れ!何も知らないくせに!」

「今全部知った!!」

俺は無理矢理上体を起こそうとした。ハーピアが押さえつけようとしたが、それでも負けじと体を起こした。

「私がどれだけ苦しんだかお前にわかるか?」

「あぁ、やっとわかったよ、ハーピア。君は君として生きるべきだ。君は自分の心を守ろうとしている。だったらちゃんと守るべきだ」

「お前が何をっ…!」


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