俺、転生します。
初めまして。ご覧いただきありがとうございます。
俺は、瀬楽彗歌《せらくすいか 》高一。
名もなきただの死人だ。今は一面まっ白い部屋の隅っこで体育座りをしている。
え?今名乗ったじゃないかって?
いやーでもほんとに今の俺が瀬楽彗歌なのかは分からないんだ。
なんか俺死んだみたいだし・・・
ああ、そんなこと考えてたらまた思い出したくもないあの死に方を思い出してしまった。
そう、あれは遠い夏の日、三日前のことだった。
え?最近じゃないかって?
馬鹿野郎!過去はもう過ぎ去ったんだから遠いだろう!
って、そんなことはどうでもいいんだ。
そう、あの日俺は学校帰りに風で飛ばされた同人誌を追いかけていた。
その同人誌は帰り道を歩いていて、何の気なしに足元に視線を落として偶然発見したものだったが、一瞬視界に入ったそれは間違いなく極上のものだった。
「欲しい・・・」
そう口に出した俺はその同人誌を手に取ろうとかがんだが、今までのより一際強い風がふき、同人誌をさらって行ってしまった。
「それは・・・僕のだぞッッッ!」
ここは東京でもなければ喰種でもないのに気付けばそんなセリフを言い放ちながら、俺は駆け出した。
「もっと速く・・・同人誌《キミ 》のもとへ。たとえ脚が千切れようとも・・・!あっ、木に引っ掛かりやがった」
なんてこった、俺が銀の鴉だったなら飛んで行けたのに・・・などとまたしてもくだらないことを考えながら俺は周囲を見渡しなにか踏み台になりそうなものを探す。
「おっと、こんなところにブランコが。この距離なら勢い付けて飛べば・・・」
しかも今日は強風の追い風という絶好のブランコジャンプ日和だ。
俺は早速ブランコの上で立ちこぎの姿勢をとり、こぎ始める。
小学校ぶりのブランコだが、なかなか上手く乗りこなせている気がした。
「このブランコが・・・行けると教えてくれてる・・・!」
既に勢いは最高潮、飛ぶなら今ここしかない。
「I!can!fly!」
安定の掛け声とともに、不安定なブランコを足場に飛ぶ俺。
そのまま気に引っ掛かった同人誌を綺麗にキャッチし、そのまま地面に着地。
とはいかず、飛ぶタイミングを完全に誤った俺はブランコの初期位置の真下に顔面から地面に落ちた。
「いたいぃぃ・・・やべっ鼻血出てんじゃん・・・」
両鼻から鼻血が勢いよく出ている。俗に言う鼻血ブーというやつだ。
ブーと言っても、決して高木や魔人の親戚ではない。
そんなあほなことを考えていたら多少痛みがマシになったので、とりあえず顔を上げる。
そう、こんなみじめな失敗をしても、痛い思いをしても、俺は同人誌を諦めることは出来なかった。
絶対に手に入れるため、同人誌に全ての注意を向ける。
そう、全て《・・ 》の注意を。
さて、俺が落ちたのはブランコの真下、ブランコは止まっていない。
そして俺は、顔を上げている。
おわかりいただけただろうか?
「ごふっ!?」
突然後頭部に何かが捨て身タックルをかましてきたような衝撃があり、俺は木に向かってすっ飛んだ。
そう、後頭部に攻撃を仕掛けてきたのはブランコ。
風の加護を受けた俺が極限まで強化した最強のブランコ。
「ブランコよ、お前もか・・・」
どうやら当たり所が悪かったらしく、意識が朦朧としてきた。
「ああ、俺、死ぬのかな」
思い返せば平凡な人生だった。
普通の家庭に生まれ、学校に通い、アニメにハマり、中二病をこじらせ、そして今に至る。
前にちゃんと中二病は完治してます!・・・ほんとだよ?
「平凡だったけど楽しかったな・・・」
このまま俺は死ぬだろう。
でも死ぬ前にどうしても成し得なければならないことがあった。
死ぬ前に同人誌を1ページでも・・・!
死の間際でもひたすらに同人誌を求め続けるその心に風が心を打たれたのか。あるいは神の慈悲なのか。
優しい風が目の前の木から同人誌を俺の元へ運んで来た。
(ありがとう・・・)
口がうまく動かない俺は心の中で礼を言い、必死に手を伸ばし、ページをめくり、適当なぺージで止めた。
一ページどころか一コマが限界だけど、それでも満足だ。
さあ、読もう。俺の人生最後の作品を・・・!
あれ、これって・・・
「これ、BLやん・・・」
それが俺、瀬楽彗歌の最後の言葉だった。
いや、我ながらほんとに酷いと思うよ、うん。
なんだよこの死因、クラスのやつらに笑われちまうよ。どんな顔して学校行けばいいのやら・・・
って、俺死んでるから学校行かなくていいじゃん!
まあ、学校どころかどこにも行けないんですけどね!
死んでからずっとこの良く分かんない部屋に放置されっぱなしだし!
某小説投稿サイトなら神様やらなにやらからチートもらって転生する流れでしょうが!
その考えに至った時、急に俺の体の一部が光り始めた。
というか、頭のてっぺんが光っていた。
いや、俺ふっさふさだし。禿げてねえし。でもなんかむかつく。
そんな中、突如俺の頭の中に浮かび上がる『転生中♪』の文字。
♪が腹立つ。
しかし、念願の転生を果たせるから我慢しよう。
あれ、ところでチートは?
すると、頭の中の文字が切り替わり、『転生特典:記憶』と表示された。
いやいや、おかしいだろ。
むしろ消してくれよ、やだよこんな死に方した記憶。
てか、対応事務的すぎるだろ・・・
『転生準備完了♪それでは良い人生を!』
俺が落ち込んでいる間にどうやら準備が完了したらしい。
良い人生を!か、そうだな。平和な世界だったらいいな。
そう、それこそ――日本のような。
まるでその答えを待っていたかのように頭のてっぺんの輝きが強くなり、全身を飲み干した。
「あなたの願い、たしかに聞き届けました。ギリギリセーフということにしておきましょう」
誰かが何かを話しているのは分かったが、俺はもうよく聞き取れなかった。
体が上から徐々に光に飲み込まれていき、やがて全てを飲み干した。
そして、俺の意識は途切れた。
いかがでしたか?
正直小説になってるかどうかも怪しいレベルだと思いますが、これから頑張りますのでよろしくお願いします。
それではご覧いただきありがとうございました。